第32話 極秘情報ゲッツ! さっさとトンズラだ!
「さてと……洗いざらい白状してほしいのだがな…… その前にどうせここで死ぬ貴様にいいことを教えておいてやろう」
ほうほう! そりゃあ、ありがたいこって。
「ううう……」
この女にとっては、己の魔法で拘束されているはずのおれは、意気消沈し今にもくたばってしまいそうに見えているはずだ。
実のところはおれは普通に椅子に座って、黙って話を聞いているに過ぎない。
「春の攻勢での総兵力はな、我が帝国の5万というのは貴様の言う通りだ。だが、魔国からも3万の兵力が動員されるのだ。総兵力8万。高々数千のあの国を蹴散らすには十分だろ?」
「……」
「それに城壁があるらしいが、今回は投石器というべきか、遠距離から門も城壁も破壊できる新兵器と城門破壊用の兵器も開発投入予定だ」
黙ったまま聞いておこう。せっかくべらべらしゃべってくれる残念王女、いや元帥閣下様だ。
「ついでに言っておくが、ドラゴンを瀕死に追い込み、卵を盗んだのは魔国に新たに仕官した刀の使い手らしいぞ? なんでも国宝級の武器を使う元王都の素浪人だそうだ」
お? それってどこかで…… あんときの長屋の素浪人? おれから刀を購入した、あのおっさんか?
そうだとすれば、対応は簡単だ。くくくっ! 酒場のマスターに聞くまでもなかったぜ!
後で裏どりをしておこう。
「さあ、素直に白状すればいいが、さもなくば楽しい拷問の時間だ、キンタ殿。くくくっ!」
「……ああ、てめえに一つ教えといてやろう!」
突然変わったおれの雰囲気に驚く王女様である。
「な! 貴様! わたしの【イリュージョン】が掛かってるはず!」
「初めから効いちゃいねえよ、バカ元帥閣下殿?」
「ば、バカな……」
「世の中には上には上がいるってことを、ちったあ認識しやがれってんだ」
「【イリュージョン】!」
「無駄無駄! てめえより高位の魔法使い相手に通用するわけがねえだろ? まだわかんねえのか? 元帥の称号が、いや【瞬滅王女】の名が廃るぜ?」
「衛兵!衛兵! こいつを、こいつを……」
いや、おれ既に拘束されてるってえの……今更衛兵呼んでどうすんだよ?
「じゃあな、くそマズ昼飯ごちそうさん。縁があったらまた会おう。ネルケ王女殿下。あ、そうそう、言っておくがお前らの遠距離攻城兵器な、全く通用せんぞ。無駄骨だとだけ忠告しておいてやる。昼飯代だ、ありがたく受け取れ」
「なんだと! クソ! 詳しく教えろ! 衛兵はまだか!」
元帥閣下の目の前から、転移魔法であっという間に姿を消すおれである。
転移先は一旦共和国にあるおれの別荘。
情報は粗方集めた。後は再度酒場のマスターんとこに寄ればいい。
ああ、疲れた~ 風呂と昼ビールでのんびりすっかあ!
*****
~魔国城にて~
「ドラゴンを1体仕留めそこなったのは残念であった」
「はっ! まことに申し訳ござらん。せめて番(つがい)のもう一体が来なければ仕留めきれたのでござるが……」
「よいよい、上出来だ」
魔国城の主と新たに仕官のかなった、あの長屋にいたかつての素浪人との会話である。
「次の機会にドラゴンの輩を滅ぼしてくれればいい」
「かしこまってござる」
「で、ドラゴンの卵はどうなっておる?」
「相変わらず孵化していないご様子」
「なにか条件があるのか?」
「某にはなんとも……」
「まあよい。お主には、春の帝国との合同でのエルフの村、今では共和国を名乗っているそうだが、そこへの遠征を頼みたい」
「それは構いませぬが……」
「帝国は『瞬滅王女』が指揮をとるらしい。おぬしは副司令官としてもしくは状況によっては前線に出張ってほしい」
「お役目かたじけなく。拙者のすべてを掛けて働きますゆえ」
「うむ……頼りにしておるぞ」
会談を終え、自室に戻った元素浪人……
「なぜ? 何故にこうなった……」
この夜、元素浪人の手からは、伝説級とも国宝級とも称せられた己の武器『刀』が忽然と姿を消したのだった。
敵対したとわかったが故に、キンタが己の販売した商品を回収したことを彼は知らない。
*****
「ああ…… ドラゴンの奥さんが死にそうになってたのは、おれのせいだったのかあ…… あとで謝っておこう。超高級栄養ドリンクを1ダース、いやグロスで贈れば許してくれるよなあ……」
ドラゴンに対抗できる『刀』も回収したことだし、いいよね?
帝国と魔国の連合軍の、春季攻勢まであと1か月……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます