第29話 帝国国境、砦の街にて情報収集です

 この帝国の国境の砦の街は、春になれば旧エルフの村、今では共和国であるが、そこへの侵攻中継拠点になるのは間違いない。

 では第一次防衛戦で生き残った将兵が、ここに居るかと言えばそうではない。

 

 生き残りの約500人は、戦場のトラウマを抱えて兵士としては、役立たずにならざるを得なかったからだ。現在帝都にて療養中らしい。


 春の戦闘ではおそらく帝国も準備万端、城攻め用の兵器は用意するだろうし、兵員も大幅に増強されるだろう。

 現在旧王国の領地の約半分が占領され、その残りを掃討する部隊以外はすべて共和国に投入されるとなれば、予想される兵力は5万弱。

 

 それでもドラゴン様とおれと、既に訓練を始めた共和国兵士の武器の性能を考えると負ける要素はないのだ。

 今回ソフィアを残し、新兵器の教育担当に残してきたのはそういう訳である。


 エルフの皆さんには、全員ハンドガンの携行。そして適正に応じてアサルトライフル、狙撃銃、対物ライフルの各専任部隊を急きょ錬成中なのだ。


 もちろん猫族、犬族、その他の種族の皆さんには、適正に応じた武器を使ってもらう予定。


 なんとなくだが、最も信用のおけない種族というのは人族のような気がする。

 

 騎士団の面々は、剣を使うことにこだわりがあるのだろう、新兵器の使用には乗り気ではなかったので、これは装備変更なしである。


 今度帰った時までには、あらかた準備は完了していることだろう。


 それと、共和国の税制に関してだが、王国従来の金または物品による納税はすべて廃止した。


 じゃあ何を徴収するのかって? そりゃあ各人の『魔力』ですよ!


 一か月に一回、自分の1日分の魔力提供だけで市民権が与えられるのである。

 仕事で金やら作物等、稼げばすべて己の物となるし、だいたい使い道のない魔力を税金として搾り取られたところで痛くもかゆくもないのだ。

 

 そういった民に優しい税制が各地に広まりつつあり、徐々に移住者が増えている。

 税制だけではなく、種族によって差別することのない共和国はこの世界に急速に受け入れられつつあるのだ。


 急成長株なので、仕事は溢れんばかりにあるのも幸い。

 食料も豊富で、住居も場合によっては無料提供。そうでなくても格安となれば誰でも引っ越して来たくもなるだろう。


 おれが導入した『銭湯』も評判になっているようだ。


 異世界転移での定番は、これからもどんどん導入していくつもり。

 自制するつもりはない。ないのだが、何もかも一気にやるつもりもないのは確かだ。

 本来、悪目立ちはしたくないのだ。


 まあ、おれは世界征服する王様や魔王なんぞになりたいわけではなく、せいぜい世界一の行商人を目指しているのさ!


 戦争が終わったら、共和国の中でじっくりと内政と商売に精をだそうと考えている。


 まだ先の話だけどね。




 というわけで、今は砦の中のとある酒場におれは居る。


「こ、これは! うめえ! 見たことも聞いたことも飲んだこともねえ酒だ!」


 酒場のマスターと目下商談中である。


 サンプルで出した酒は、ウオッカ、バーボンウイスキー、ブランデー、日本酒、スパークリングワイン、それになんといっても冷たいビール。


 ついでにつまみも少々。ちょっとやりすぎた感も否めない。


「で? 仕入れさせてもらうに当たっての対価は?」


「格安でおろすよ。その代り情報が欲しい」


「ふむ…… あんた、ただの行商人じゃねえってわけか……いや、金さえ払ってくれれば情報屋なんて詮索するつもりはねえよ」


「……ああ、それで頼む」


「ひとまず、ここの客でも上級な将校連中相手に飲ませてみる。どの程度用意できる?」


「ああ、構わん。望むだけ置いていく。将校だけとは言わず一般兵にもいきわたる位にな。せいぜい儲けてくれ。一般兵に買える値段ならいいが」


 にやりと笑うと、マスターもふふんと鼻を鳴らす。


 この世界では冷却技術が一般的ではないので、ビール以外のサンプル商品をすべて1グロス(144本)の瓶入りで提供することにした。


 値段は一本当たり均一価格で金貨半枚。 


 5種類*144本*0.5=360万円相当である。


 魔力で清算ではなく、ここは普通の取引。

 末端価格は多分10倍以上。グラス売りなんぞしたら天井知らずの利益を得られるはずである。


「で? 何を聞きたい? 行商人様」


「キンタだ。よろずやキンタ」


「へいへい、キンタさんね。了解」


「今知りたいのは3つ。帝国の新兵器情報。春の侵攻予測時期と規模。それにドラゴンの卵を奪ったやつの情報とその行方だ」


「な! か~!…… こりゃあ参ったね! そいつは、同業者の中でも超極秘情報だぜ? 特に3つめ! 他の2つも特級の極秘情報さね」


「ん? 対価が足りないか? 必要ならもっと用意するぞ?」


「いや、十分さ。人間あんまり欲をかいちゃあいけねえやな」


「ふむ……」


 案外まともな人物らしい。


「3日後にまとめて情報を渡す。それでいいか?」


「わかった。それでいい。その時には酒の評判も聞かせてくれ」


「あいよ! では契約成立に乾杯だな!」


 きんきんに冷えた生ビール(10L樽)をサービスに置いて行こうか。


「う、うめえ! うめえよ、これ! これもうちの店で出せたら!」


「まあ、冷却用の設備がないと難しいぞ?」


「てか、なんであんたは冷えた飲み物まで出せるんだ? 反則だろ?」


「ま、企業秘密ってことで」


「ま、いいか、こいつはおれ一人で楽しませてもらうわ」


 契約で提供する酒を半分だけ置いて、おれはその酒場を出る。残りの半分は情報と交換である。


 さて、3日の時間が出来た。次の商売商売! 




~共和国内 練兵場にて~


「教官殿! これは! こんな武器を使わせていただいていいのでしょうか?」


 教官と呼ばれたのは、ソフィアであり訓練生はエルフの部隊長格の数十名と猫族、犬族などの隊長格の面々である。


「問題ない! それにこの『ハンドガン』というが、これはほんの護身用とも言うべき兵器で、お前らに扱ってもらうものはこんなもんじゃないぞ?」


 にやりと笑うソフィアの教官姿も結構様になっている。割りと長くキンタの護衛役を任され、同時に各種武器の扱いに慣れた彼女はもう立派な教官と言えるだろう。


 専用に作られた射撃場でおよそ10人ほどが、弾数など気にすることもなくバンバン撃ちまくっている。

 このハンドガンの扱い方、成績、身体能力を判断材料に今後は狙撃兵、突撃兵、対物ライフル班などに振り分けていくようにとのキンタからの指示である。

 そして今ここにいるメンバーが隊長格となって各部隊の指導を行う予定だ。

 

 その後は適正能力によって部隊での配置変更を行う。


 ちなみに火薬使用の実弾ではないので、音はうるさくないし反動もない。

 だが、その威力はこの世界ではありえないほどのものである。


「どうなってるのか、おれもよくわからん」

 というのが、キンタの言ではあるが、彼以外はそれこそ「何言ってるかわからん」だろう。


 魔力属性付与できる魔法使いがいれば、さらにその威力を上げられるのだが、現段階では銃そのものの性能頼りではある。


 それでも破格の武器を手にした共和国常備軍兵士の表情は明るい。


「これならば…… これならどんなやつらが来ても怖くない!」


 火薬式実弾銃と違い、最低でも装弾数50発。装弾もおどろくほど簡単で、弾自体はBB弾なので軽く、携行量も多くできる。

 こんなんで人が殺せるのか? というのが初めの印象であったようだ。


 ところが実際に射撃をしてみると、およそ10メートルで騎士団の鎧など簡単に貫通してしまったのだからびっくらこいてしまったのさ。


「本日の的当ての成績が、おおよそ次の武器の方向性を決めると思え! いたずらに適当に撃っているとお目当ての部隊には入れんぞ?」


「お、おれ、頑張る! 超長距離狙撃銃あるって聞いたし!」


「お、おれも!教官殿にじっくり、手取り足取り狙撃銃とやらを指導してほしい!」


 一部方向性のおかしいやつもいるが、おおむね訓練は順調の様である。



 砦での防衛戦を担う者たちとは別に、猫族や犬族などの斥候や諜報任務に就く者たちはやや別格で、彼ら彼女らはすべての武器の習熟が求められる。

 小はナイフから大は対物ライフル。


 将来は迫撃砲等も導入の予定である。


 共和国兵士の使う武器は、すべてキンタが【通販】で購入したものだ。


 1万人が毎月それぞれ1日分の魔力を提供してくれる。財源はもちろんこれ。


 概算だが、月次収入と年間収入は以下の通りである。


 一人当たりの平均魔力=1000(多いものもいれば少ないものもいるため)


・月間収入 1000*1万=1000万(10億円相当)

・年間収入 10億*12=120億


 もちろん人口は右肩上がりなので、国家運営上はこれで何の問題もない。

 これをすべて通販を通して資材、食料等を購入できるのだ。


 実際には、この世界のお金を流用しているわけではないので、経済界を混乱させる要素は少ない。


 通常の取引は、もちろんこの世界の貨幣で行われ流通はますます盛んになるだろう。

 『魔力』が流通貨幣として使える時代がくるかもだが、それによる影響はまだまだ想像の枠外。



「よし!では、成績の如何に関わらず、すべての武器を体験してほしい。次はアサルトライフルだ」


「おお! これは楽しみだぜ~」


 ちなみに重火器関連の訓練とは別に、肉体イジメかと思われる過酷な訓練も存在する。

 常備軍に入隊するにはこの訓練課程を終えることが前提であり、今ここに居る生徒たちは全員訓練課程修了生である。



 やがて訓練は終了し、三々五々皆が宿舎内の『風呂』へと向かい、食事は各々が好きなものを好きなだけ食べるというカフェテリア形式の食堂へと向かう。 


*****



「さて……3日間何をしていようか……」


 帝国の国境の砦で思わず時間のできてしまったおれだが、遊んでいる暇などない。

 情報収集と商売にせっせと精を出そう。


 砦内は基本的にはどこでも自由に動けるわけではない。

 軍事関連施設への出入りは禁じられていて、徘徊できるのは一部の商業地区と宿泊地区だけだ。


「今度は、商業地区でめぼしいものでも探してみるか」


 

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