共和国 VS 帝国 編
第28話 再び行商の旅へ出発せん!
共和国の体制強化が、早急に行われることになった。
住居や食料の問題は、おれがいるので全く問題はない。
暫定国王は一旦廃止し、現在は各種族の代表による合議制を敷いている。
・エルフ族代表……旧エルフ村族長
・猫族代表 ……旧猫族の村村長
・犬族代表 ……旧犬族の村村長の息子(村長既に死亡)
・人族代表 ……旧王国第二王女のレイティシア
・龍人族代表 ……龍人族の村族長(住居はもとのままでアドバイザー的立ち位置)
今後、種族が増えれば随時代表者を決めていく予定である。
ちなみに閣僚的な肩書を持つ者は以下の通りである。
・共和国財政担当(共和国お抱え商人) …… キンタ
・共和国軍事顧問 …… ドラゴン夫婦
・共和国防衛担当 …… 旧エルフ村の弓兵隊長他
・共和国生産担当 …… クマ(ドワーフ)
・共和国教育担当 …… イブ
それ以外は適材適所であるので紹介は省く。
情報やら諜報任務が猫族だったり、斥候隊が犬族だったり、戦闘向きでない人が事務職だったり色々である。
「レイティシア様、そろそろご自宅に戻られてはいかがでしょうか……」
「なにを言う! キンタ殿のこの家程快適な家はないのだぞ? わらわはもうこの家の住人じゃ!」
せっかく王女のために作った家はお気に召さなかったらしい。
なんで? だってエアコン、冷蔵庫、洗浄トイレ、風呂……なんでもありなはず……
なのにこの残念王女は、なんで相も変わらずおれの家に居候しているのか……
それは……おれに胃袋をがっちりとつかまれているに他ならないらしい。
ミランダ以外の騎士団員は、向こうのどでかい家で暮らしているのに……
いい加減、口うるさいミランダを連れて自宅に帰って欲しいわ……
「わらわは帰らんぞ、キンタ!」
もはや呼び捨てかよ!
現在、共和国の住民はおよそ1万人。
子供や老人以外は全員戦闘訓練を受けている。
常備軍としては2千人ほどだが、いざ戦争となれば防衛専属ではあるがおよそ8千人がこの都市を守ることになる。
外廓城壁は、およそ2キロ四方の大きさであり、ちょっとやそっとのこの世界の軍隊では落とせないほどの防御力を有している。
何を仕込んだかは、そのうちにわかるだろう。
「じゃあ、数日中にはおれはまた行商の旅に出るんで、戸締りよろしくお願いしますね? レイティシア様」
「な、なんじゃと! 聞いておらんぞ! わらわも連れていけ!」
「共和国の代表者の一員である、レイティシア様を連れていけるはずがないでしょう」
「ムウ……」
「むう……じゃなくて、ここで大人しく王国再興のための手を考えておいてください。それにおれは商売だけで帝国と魔国にいくわけではないですから……」
「奪われた卵の行方と2国の状況を潜入偵察してくるのじゃろ?」
「ええ……スパイとして捕まる可能性もあります」
「捕まったら、お主の転移魔法でトンズラすれば済むじゃろう」
「だから、おれ一人ならばなんとでもなるわけで……」
今回の行商の旅への同行希望者は、もはやコントロールできるレベルではなくなってしまった。
ソフィア、イブはもちろんの事レイティシア、マーガレット、ミランダ、猫族族長、犬族族長、エルフの皆さまは数知れず……
だから当面一人で旅することにしたのだ。
それに転移魔法使えばいつでも帰れることを説明して、皆に納得してもらったっす。
いざとなれば、ドラゴン夫妻が飛んでくるぜ!
ちなみにドラゴン夫妻には定期的に、山岳の住処と共和国の警備をお願いしておいた。
「そんなことでいいのか? 言われれば帝国も魔国も滅ぼしてくるぞ? キンタ殿」
いやいや、あんたらを瀕死に追い込める奴の正体がわからん以上は、無理は禁物。
戦争やら街の防衛、運営なんかは人任せである。正直、めんどくさいのだ。
「では、行ってきます!」
多くの見送りを背に、おれは一人で商売道具を背負って行商の旅へと出発したのだった。
~魔国城にて~
「なぜ孵化せんのだ! 条件はわかっておるのだろう!」
「はい、閣下……ですが一向に孵化どころか兆しすら見えませぬ……」
「研究員が雁首そろえてなぜ孵化させられんのだ! ドラゴンの卵などそうそうに手に入らんのだぞ!」
平伏する以外にない研究所所長である。
魔国にとって研究が第一。他国がどうなろうといいのである。ましてや領土欲など無いに等しい。
それはつまり、いつでも世界征服できるという自負心のなせるわざであろう。
「無理やり殻を割ってみては……」
「バカか、お前は…… そんなことしてみろ、二度と手に入らぬドラゴンの卵が無駄になるわ!」
「はっ、ははあああ~~ 申し訳ございません」
~旧王国王都、現帝国直轄領にて~
「あのエルフどもを根絶するための、兵器開発は終わったのか?」
旧王城で部下の報告を待つネルケ元帥…… 帝国第一王女でもある。
「あとしばらくで完成でございます」
「春の遠征には間に合うのだろうな?」
「それはもう、確実に! 数も20台が完成間近でございます」
「急がせよ! 試射テストも必要であろう?」
「ここの城壁での試射は済んでおります。破壊力は問題ないかと」
「やつらもぶったまげるだろうよ。なんせ城壁を越えて大岩が飛んでくるんだからな」
「敵の城門も、おそらく木っ端みじんですな」
新兵器とは…… 現代人から見ればただの大型投石器。
この世界の『技術力』とはこの程度なのだ。
井の中の蛙、ここに極まれり……ですな。
「ところで……あの憎々しいエルフ共の巣へ放った密偵はどうした?」
「いえ……それが、期限を過ぎてもだれも戻って来ておりませんので」
「なんだと! また同じことを繰り返すつもりか? 前回、偵察をおろそかにしたがための全滅という結果なのだぞ? 再度敵情視察の人間を送り込め! 数は倍、いや3倍」
「か、かしこまりました! すぐに手配いたします」
「なんなのだ……偵察隊が一人も戻れないような、化け物でもいるというのか……」
帝国側の偵察兵をサクッと殺すか、捕らえて情報を吐き出させているのは、共和国の猫族の隠密部隊である。
だいたい、どれほど能力が高かろうと人間の能力は獣の比ではない。隠密性に長けた猫族のスキルは、隣に近づくまで全く察知できないレベルなのだ。
猫族は隠密または偵察兵。犬族は長距離行軍を伴う威力偵察または戦場での迂回遊撃要員。
エルフは遠距離狙撃または森林内特化のゲリラ部隊。
それ以外にも、ただの行商人キンタの指示によって、適材適所で人員の育成策が行われている。
帝国側の情報が筒抜けなのも、無理はないのだ。
~共和国から帝国へと続く裏街道にて~
「人通りが少ないなあ。まあ結構雪も積もってるし、戦争状態が続けば無理もないかあ」
今回帝国へと潜入するにあたっては表街道(旧王国王都経由)を使わずに、裏街道(森林から直ルート)を行くことにしたのだ。
少ないというより、まったく居ないのだ、旅人が。
「これじゃあ、おれって怪しい旅人感満載だよねえ」
周りに誰もいない。独り言をつぶやくばかりだ。
静かな、人通りのない裏街道を抜けると帝国国境に位置する比較的大きな街、というよりも砦が眼前に姿を現した。
もちろん、怪しいことこの上ないおれを、砦の上から誰何する声が上がる。
「何者だ! 」
「怪しいものではありません。旅の行商人でございます」
「な、なんだ……商人か……」
あからさまに、ほっとした表情を浮かべる衛兵である。
さあ、砦内の情報収集といきますか……
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