第27話 旧猫族の村の攻防戦 その3 終結

 おれ個人には帝国と魔国の兵士に恨みなどない。

 機会があればおれの顧客となるかもしれんのだ。


 だが、ここは王国側の顧客救助を優先させていただこう。

 王国側陣地を飛び越え、帝国軍の上空に達したおれたち龍騎士の面々である。

 正しくは、龍騎士はおれだけな!



「薙ぎ払え!」


「…… 何です、それ? キンタ様……」


「いや……一度言ってみたかっただけだ、気にするな」


 某アニメで使われていたセリフだ。異世界じゃあ、どうせおれしか知らん。


「本当にいいのか?キンタ殿……薙ぎ払うぞ?」


「は、はい。お願いします、ベルンシュタインさん、ペルレさん」


 ドラゴンの雷撃が一閃すると帝国兵士はすべて感電によりその場で卒倒。

 続くファイヤブレスが解き放たれると、帝国兵士はただの消し炭となった。


 その掛かった時間……わずか数十秒であった。


 兵種も身分も兵器の良しあしも、何もかもが吹き飛ぶ容赦のない一撃……いや2撃か。

 圧倒的な暴力の前に、帝国3千の兵力が地上より永久にその姿を消したのだった。


「す、すげえ……」


「恐ろしいです……」


「味方で良かった~! うわ~ん!」


「さすがは主様…… 」


 泣くなバカソフィア! って、まあしょうがないか……こんな惨劇みせられたんじゃ……


「われもすっきりしたがな。卵泥棒を捕まえるまでは、やつらを許すつもりはない」


「愛しの我が子を救うまでは! 」






~旧王国王都王城にて~


「なんだと! 追討軍3千が壊滅しただと?」


「はい……現地へ派遣した連絡将校の話では、全員消し炭にされていたと……」


「むう…… 伝説のドラゴンか……」


「そのようです」


「だからドラゴンの卵を盗むなど反対したのだ。魔国の奴らめ……損害を受けたのは我らだけではないか!」


「すでに魔国への報告も完了しております」


「だが奴らは卵を返還などせぬ。奴らにはドラゴンに対抗できる、とっておきがあるのだからな」


「とても信じられる話ではないですが……」


「実際に奪って来ておるのだ。信じざるを得ん」


 占領された王城で会話しているのは、帝国王国方面総司令官のネルケ。


 彼女は、帝国第一王女であり、『瞬滅王女』という二つ名を持つ帝国軍元帥の肩書を持つ。


「だが、まあたかが3千。どうということはない。来春までに戦力の充実を図り、一気にあの忌々しいエルフ共とドラゴンの奴らを殺してくれる」


「エルフの村はすでに『共和国』を謳っております」


「村だろうが共和国だろうが同じことだ。どうせ滅ぼしてやるのだからな」


「さようですな」


「ところでドラゴンの卵は今どこにあるのだ?」


「はっ! 既に魔国の最前線基地まで運び込まれたとのこと」


「やつらはそれを使って何をやろうというのだ?」


「彼らの配下として使役するのではないかと……」


「ドラゴンとはいえ、たかが子供をか? 成長して戦力とするには100年単位で時間が必要だと言うのにか? おかしいと思わぬか?」


「確かに…… ならば『改造』もしくは幼体を使ってのなんらかの実験かと」



「ふむ……なんとも言えんがな。情報部にその辺を詳しく探るように伝達しておいてくれ」


「かしこまりました」


「さて……向こうも春までは戦力の向上を図るだろう。こちらも準備万端整えることにしようではないか」





*****


 王国軍の騎士団100名と第一王子、第二王女の命、それに5千人もの王国一般市民を救ったおれたち4人はあっという間に救国の英雄に祭り上げられた。


 ってか、王国もうないじゃん? どうすんの君たち。


 緊急食糧援助もただじゃないからね? 頼むよ……おれは商人なんだよ。


「キンタ殿、お久しぶりじゃの……此度は助けていただき礼をいう。わらわの礼などなんの役にも立たぬが……」


「レイティシア様! このような下賤のものに頭を下げるなど!」


「バカはお前じゃ、ミランダ……まだわからんのか……いい加減目を開け!」


「くっ……」


「何度も命を救ってもらい、それにキンタ殿は既に『龍騎士』様であるぞ? それはもう『貴族』であることに等しいのだぞ? それでもお主のような態度を取り続けるというのならば、今日よりお主の騎士団およびわらわの護衛の任を解く」


「そ、それは…… わかりました。おっしゃるように、今後はキンタ殿に無礼な態度はいたしません」


「頭を下げる相手を間違えておる。下げるべき相手は、わらわではなくキンタ殿であろう」


 相変わらず頭の固い騎士団員様であるな、ミランダさんよ……


 あんたそのうち首になるぞ?


「早速じゃが……色々と相談させてくれぬか、キンタ殿」


 待ってました! 商談ですね? それも大型案件っすね!


 王国国王が戦死し、事実上王国は消滅したわけで……王子は幼く第一王女は他国に嫁にいっていて不在。

 唯一第二王女のレイティシア様がいても、軍事経済その他すべてにおいて国を復興するという状況ではない。


「一度エルフの村……いえ今は共和国を名乗っています。そちらで今後の事もじっくり考えてみませんか?王女様」


「5千人の民も受け入れてくれるのじゃろ? でなければその話、承諾はできぬ」


「もちろん受け入れさせていただきますよ。食料も供給します。そのまま共和国民になることを希望される場合は定住していただきましょう。住居と仕事もお任せください」


「わらわと王家、騎士団はどうすればいい?」


「向こうで臨時の王国政府を立ち上げればよいのではないでしょうか。そのための助力が必要であればおっしゃってください。ただでは動きませんけどね」


「貴様……この守銭奴が!……」


「ミランダ! 何度言えばわかる! これが最後じゃ! 商人に対価なしに援助を求めるなど言語道断じゃ!」


「……は、はい……王女様……」



 そうそう、もうあんたは口きかんでよろし。


「対価はここに居る全員の魔力1日分。それで共和国への輸送と当面の食料、水、日用品等の提供をさせていただきますが、いかがでしょうか?」


「向こうでの住居は別途か?」


「個別の住居は別途各自相談させていただきます。当面共同宿舎へ入居していただく場合は期限付きで無料でも結構です。仕事はしてもらいますが……」


「うむ……それでいい。わらわの住まいは……」


「しばらくはおれの別荘にお迎えさせていただければと考えていますが……」


「そ、そうか…… またあの料理が食せるのじゃの? 風呂とトイレも?」


「大丈夫ですよ」


「よ、よろしく頼む」



 こうして共和国の暫定住人がおよそ5千人以上増え、おれは大急ぎで現地の住居と食料その他の調達に駆けまわることになる。

 ついでに春までの防衛力強化のために、城壁をさらに広げ立派な二重城郭都市が完成するのは雪が積もり始めるほんの少し前の事であった。





***第1章完了***

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