第25話 旧猫族の村の攻防戦 その1
ドラゴンの夫婦、名前はない、つけてくれと言われたので独断と偏見でつけさせてもらった。
おれなんかが付けていいんかい! って話だが、まあ良しとしよう。
後で文句言われても知ったこっちゃない。
「旦那さんの方が【ベルンシュタイン】で、奥様の方が【ペルレ】でどうでしょうか?」
「うむ……ちなみに名前の意味はあるのか? キンタ殿」
「ええ、どちらもわたしの生まれた国では『宝石』の名前です。種類は違いますけどね」
「よかろう……今後はその名前で呼んでもらおうか、キンタ殿」
「わかりました。ところで……話は違いますが、ご夫婦から大事な卵を盗んだやつらの服って見せていただいても?」
「ああ、それならば族長に預けてある。後で見せてもらうといい。それと…… これを渡しておこう」
ドラゴンのベルンシュタインさんから渡されたもの……それはドラゴンを呼び出すための【笛】であった。
「それを吹けば最短時間で駆け付けることを約束しよう。赤い方がわたしだ。黄色の方は我が妻の呼び出し用となる」
後で聞いたら旦那さんは赤……炎龍。奥様は黄色……雷龍 であった。
属性がそれぞれ火、雷だったわけだ。
こんな怪獣もどきから、卵を奪っていったやつってどんだけ強かったんだって話だ。
「明日にでもこの辺を探索の空の旅に出てみないか? キンタ殿」
「おお! よろしくお願いします! 遊覧飛行! いいですねえ」
「今晩はゆるりと休まれよ。我らも久方ぶりに夫婦の営みを……」
そこからは言わんでいいって! 勝手に盛っててくだせえ、ドラゴン様! あんた方は勝手に浪漫飛行してろや!
ドラゴンの巣を退出したおれと族長は、龍人族の村へ戻ると大歓声で迎えられたことは言うまでもない。
奥方の治療が上手くいったおかげで、この世界の破滅から救った救世主様なのさ、おれは。
「キンタ殿! 今晩は大宴会ですじゃ! 酒も女も引く手あまたですぞ!」
龍人族の女性…… ちょっとだけ興味あるかな……
ソフィアがなんていうか…… ってかソフィアはおれの嫁確定したわけじゃねえし!
その晩は飲めや歌えやで大盛り上がりだったが、幼女イブさんがおれの懐から離れず、ソフィアも隣にぴったりと張り付いたままだったので、おれ自身は大した良い目を見ることなく終わった、とだけ報告しておこう……
宴会の翌日、族長から卵泥棒たちの服を見せてもらった。
おれ自身は見たことがなかったが、さすがにイブちゃんは知っていたわ。
見た目は幼女だが、伊達に歳は取ってなかったようだ。
相変わらずおれの股座に落ち着いている。どうやらお気に入りの特等席らしい。
「これ……魔国軍兵士の制服です」
おっと…… 卵泥棒は、魔国軍だったか。
こりゃあ、近いうちに魔国へ商売……いや潜入せねばなるまいて……
「キンタ殿、ならば卵泥棒は魔国軍であったと?」
「可能性は高いです。ただ、変装していた可能性もありましょう」
変装していたおれが言うのもなんだが……
昨晩のこと、一応正体は明かしておこうとおれとソフィアは一旦変装を解いてみた。
そしたらすごいことすごいこと!
やれ嫁にもらってくれだの、娘をまとめて引き取ってくれだの、ソフィアも嫁に来てくれコールが凄まじかった!
いつか盛大な多種族混合ハーレムを作ってみたい! というのは男のサガってやつかな……
「帝国と魔国が手を組んでやった可能性が高いと思ってます。ただ、ドラゴンを一方的に無力化できる奴の正体が不気味ではありますが……」
「そうですな…… そんな相手ならば我らが束になっても勝てますまい」
緊急避難ができるように、おれは族長には『スマホ』を渡しておく。
「これは?」
「遠距離通信魔道具です」
「な、なんと!」
一通りの使い方を覚えてもらったので、いつでも何かあったら呼び出してくれるようお願いしておく。
「それと族長さん。エルフの村は、現在多種族共存を目指した『共和国』として大きく変貌を遂げています。もし緊急事態が発生した場合は、いつでも皆さんを迎え入れる準備は出来ていますので頭の隅にでもいれておいてください」
「キンタ殿……あなたはいったい何者なのですか…… いや、ありがたい話ですが」
「ただの行商人ですよ」
「そんなはずはありません。さぞ名の知れた魔術師か薬師か……」
笑ってごまかそう……
「では、とりあえずベルンシュタインさんを呼んでちょっくら空の旅を満喫してきます」
赤い笛を吹くとほどなくしてご夫婦がやってきた。
龍人族の広場はちょっとしたパニックである。
すべての住人が跪いてドラゴンに平伏~
「人族のキンタ殿、では初飛行と行こうかの」
「連れが二人おります。そちらもよろしいでしょうか?」
「なに、構わぬよ。今回は我ら夫婦ともども久方ぶりの遊覧飛行を楽しみたいでな」
おれとソフィア、イブ、そして族長の4人で飛行体験することとなった。
族長…… あんた龍形態で自分で飛べるんじゃね?
「いやいや! ドラゴン様に乗せていただいて飛行したというのは、末代までの自慢になりますからな」
護衛要員としてちょうどいいか……
~旧猫族村 急造陣地付近~
「レイティシア様、敵軍が見えました。白旗を上げています。おそらく降伏勧告を行うつもりのようです」
「そのようじゃの。向こうは司令官と側近か……ならばわらわが行こう」
「レイティシア様! き、危険では?」
「今更危険も何もなかろう。総攻撃を受ければ同じことじゃ。その間に少しでも多くの民を犬族の村まで退避させられる。そこまでいけば奴らも追ってはこんだろう。雪が積もるでのう」
昼時で天候も穏やかとはいえ、外気温はかなり低い。
敵も本格的な冬の到来の前の荒稼ぎなのだろう。
陣地に籠っているとはいえ、戦力比は100対3千。勝負は一瞬でつく。
「そちらは王国第二王女レイティシア様とお見受けいたす。わたしは追討軍総司令官XXと申します」
「レイティシアじゃ。われらをどうするおつもりじゃ?」
「何、降伏勧告に来たまでのこと。いたずらに民を損なっては王家の名折れとなりましょう。ここは大人しく武器を降ろしていただきたい」
「ならば聞こう! 降伏すれば、ここにいるすべての民の安全を保証してくれるというのじゃな?」
「……命の保証だけはいたしましょうぞ」
「お主の後ろに控える『野獣』どもの淫欲がダダ漏れじゃ! 命の保証とは、黙って犯され、奴隷になれと言うことであろう?」
「そ、それは……戦場のたしなみというもの……勝ったものの権利と申すもの……」
「たしなみじゃと? たわけ! そんな世迷言……耳傾けるものなど、ここにはおらぬ!」
「な、ならば力ずくで奪うまで! 後悔めされるな!」
「おうよ! 存分に王国の剣を味おうてもらうぞ? そちらこそ後悔いたすな! わらわの剣の錆にしてくれるわ!」
「……王女ごときの分際で…… すぐに捕まえておれの目の前でヒイヒイ言わしてやる」
「……交渉は決裂。互いに存分に戦おう。遠慮はいらぬ、掛かってくるがよい! 性欲の塊司令官殿!」
王国とて清廉潔白なる兵士ばかりではない。時と場所、形勢が逆転すれば過去に何度も奪う側になっていたのだ。
今回は、たまたま奪われる側に回っただけのこと……そう……たまたまだ……
降伏勧告を受け入れれば、戦うよりは命を拾える民も多いだろう。
だが、少なくとも王室の人間とそれを守る騎士は最後まで戦うしかない。
生きながらえて恥に塗れたまま生きていく気もない。
「王国の民よ! 我ら王家の人間と騎士団はぬしらを守るため、最後の戦いに赴く! 我らが散った後は大人しく降伏してくれ! 屈辱を受けようとも生きてさえおれば、また生活は取り戻せる。達者でな!」
逃げることもままならず、その場に残った一般市民を前に王女は語る。
「レイティシア様。迎撃態勢完了しました」
「ミランダ! また、あの世で会おう!」
「は、はい! どこまでもお供いたします!」
「うむ…… 総員戦闘に備えよ!」
昼過ぎ、旧猫族の村近くの草原地帯で、王国の歴史上最後の戦闘が始まった。
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