第24話 龍騎士誕生!

「我が妻を助けてもらったお礼をさせて欲しい。人族のキンタ殿」


「わらわからも是非、礼をさせてほしい」


 ドラゴン夫妻からのお礼というか治療費…… 一体全体何がもらえるのだろうか……


「金銀財宝も好きなだけ、でなければ我らの鱗は高い価値があるというがそれでも構わぬ。それとも半永久の命を得られる我らドラゴン族の『血』などはどうか?」


 ふむ…… 金銀財宝は、まあ今のところは不要。半永久の命などおれは欲しくはない。鱗は確かに希少価値はあるので、商売としては十二分以上に価値があるだろう。


 だが……おれは行商人。顧客の『魔力』をいただきながら商売をするよろずやなのだ。


「では……ご夫婦のそれぞれ1日分の『魔力』をいただけないでしょうか? 魔力枯渇が困るようでしたら2日に分けて半分ずつ」


「ふむ…… そんなものでよいのか? 魔力など得ても使えはせんのだろう?人族のキンタ殿」


「おれは……わたしは人々の持つ魔力を商品や金に換える術を持っています。たとえ、それが多い少ないに関わらず1日分の魔力を対価に商売しております」


「なるほど…… 金のない庶民からは、魔力を対価に商品を売る行商人ということか……」


「ええ、その通りです」


「わかった。だがそれだけでは我ら夫婦の気が済まぬ。今日よりそなたに『ドラゴンライダー(龍騎士)』の称号、権利、そして我ら一族のだれにでも騎乗することを許そう」


 へ? ほ、本当に?おれがドラゴンライダー! うひょひょ~


「あ、ありがとうございます! おれって今日から龍騎士?…… 」


 それって『貴族』の称号なんじゃね? 王国でも帝国でも同様って聞いたような聞かなかったような……


「での、その代わりと言ってはなんだが、頼みが二つあるのだ」


「はて? それは一体なんでしょうか?」


 美味い話には裏がある……の典型だな。


 ドラゴンが所望した願いの一つは『超高級栄養ドリンク』の定期的納入。


「見てのとおり、恥ずかしい話だが…… 我が番……妻は一気に発情期を迎えたようでな……お主の与えたその飲み物のせいなのだろう?」


 いやいや……夫婦仲のためなら喜んで! ドラゴン夫婦が円満ならこの世も平和かもしれんしね。


「了解しました。不定期になるかもしれません、とりあえず100本置いていきます。1日当たり2本ほどでよろしいので?」


「うむ………しっかり対価は払う。納品の度に我らの魔力半日分でどうか」

 

 真っ赤な顔で?恥ずかしがってるよ、ドラゴンのおっさん……いや奥さんもか……ドラゴンの表情はいまいちわからんが……


「了解しました。それで結構です」


「キンタ殿……あの……」


 なによ? 族長……ひょっとして……あ、あんたもか!


 ああ、そりゃあ奥さんが12人も居れば無理もないか。

 最高級品じゃなくて、廉価版で十分だろ?族長…… 1本100円原価のやつな


「た、頼む…… 対価は払う……」

 

 ただ働きなどせんよ、おれは! がっぽり稼がせてもらうぜ! 龍人族の諸君!



「それでもう一つの頼みなのだが……」


 ドラゴンの2つ目の頼みというのは、ある意味予想出来た話ではあった……


 

『ドラゴンの卵の奪還』


 そのために力を貸してほしいとのこと。


 おれは、盛大にため息をつきたい気分だったが、そんなことはおくびにも出さず首を縦に振るしかなかったのである。






 ちなみにドラゴン一人の魔力総量…… およそ300万! 3億円相当でした~!


 今回のあこぎな(決して不誠実とは言わないぜ)商売もウハウハでんがな。


(今回の収支)

・支出 栄養ドリンク 124万円(124本)

・収入 魔力 2*300万=600万(6億円相当)


(今後、月毎収支)

・支出 栄養ドリンク 60万円(60本)

・収入 魔力 150万(1億5千万円相当)


 黒字なんてもんじゃねえな……



 卵奪還したら、今度は何を請求すっかな……






~旧猫族の村付近にて~


「レイティシア様! 追手が迫っているとの情報です!」


「数は!」


「およそ3千! 距離半日!」


 王都を脱出し、以前は猫族が村落を形成していた集落まで達した旧王都の難民がその数5千。


 ほとんどは武器を持たない一般市民である。その避難民がただいま朝餉中。


 警護に当たっていたのは、王家の人々と王家直属の兵士達。

 純粋な戦力としては100人にも満たない数である。


 屈強な帝国の兵士たちに追いつかれれば、良くて奴隷。

 女は凌辱され、老人と子供は抹殺されるだろう。


「ひ、姫様……」


「ミランダ…… 我らは、我らはここで民の一人でも守るため、ここで果てるしかないようじゃ」


 既に逃避行の旅の疲労が最高潮に達している二人の目の下には、くっきりと隈ができていた。



「この村なら食料と水も少しは補給できるかと思いましたが、既にもぬけの殻とは……」


「5千人の口を満足させるだけの備蓄のある村など、王国内にはありはせぬ。せんもないこと」


「確かにここがちょうどいい死に場所なのかもしれません。もはや皆の食料も残りわずか…… 我らの力ではどうにもなりませぬ。せめて……せめてあの男(キンタ)がいてくれれば……」



「言うでない! ミランダ…… あれは夢の中の出来事だったのじゃ。最後にいい夢を見れたことを感謝こそすれ恨みに思うなど……」


「はっ! 申し訳ありません」


「あの男にお礼の言葉の一つも言えなかったことは、残念であったがの……あの世で詫びよう」


 旧猫族の村の周囲を、急造の陣地構築にいそしむ騎士団員たちであった。





~帝国追撃軍臨時司令部~



「あと半日か…… 思ったよりも時間がかかったな、参謀長」


「は! 王都に残った捕虜等の処理に、思った以上に時間が掛かってしまいましたので」


「だからさっさと少数で出発すればと、わしは上層部に進言したのだ」


「ですが、すでに逃亡中のやつらは、ほぼ全てが一般市民。追いついてしまえば何の苦労もありますまい」


「ふふふ…… 捕まえ放題、やり放題、搾取し放題だからの。兵の士気も高かろうて」


「追撃隊参加希望の人数を絞るのが大変でした……」


「それは仕方なかろう。多すぎればあぶれる奴もおる。お互い良い女を抱きたいものだな、参謀長。くくくっ!」


「久々に#男__ムスコ__#が滾りますな司令官殿」


 ニタニタとゲスな想像力たくましい二人である。



「それはそうと……エルフの村へ向かった部隊は大そう苦労しているとか……」


「いや、ここだけの話だがな……情報統制されているでな。五千の部隊がほぼ壊滅したらしい」


「な、なんと!」


「エルフの村ごとき!と向かった生き残りに話を聞いたところ、村どころか城壁のある砦、新兵器などもあったとのことだ」



「なぜ…… エルフが……そのような物をどこから用意したのでしょうか……」


「わからん……幸いこっちは無難に終わりそうだからな。あっちは貧乏くじってやつだな」


「こちらでの掃討戦が終われば、来春には全部隊でエルフの村への遠征もあり得ますか?」


「もう雪がつもりそうだからな。今回のこの追撃が終われば、この国の王都で一息つくことにはなるだろう。そして春には息の根を止める」


 春を迎える前の最後の戦いがまもなく始まろうとしていた。

 戦いとは名ばかりの虐殺劇…… この時は、だれもがそう思っていたことは間違いない。

 もちろんその意味するところは、厳然と実行されたのではあるが、大方の予想とは大きくはずれる結果となるのであった。

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