第20話 ドラゴンの巣へ その1


 おれの持ち込んだ治療薬、回復薬(主に栄養ドリンク)などは劇的に効いた。

 高位魔法使いであろうイブさん(あとで知った名前)の回復魔法など目じゃないくらいに効いた。


 目算で彼女の回復魔法10回分以上でおれの回復薬1本分といったところか……


 彼女の回復魔法1回分でどれだけ魔力消費するかというと約100。

 コスパは圧倒的におれの所有する薬等のほうがいい。

 やけど薬もかなり効き目がある。

 この世界では回復不可能な火傷が瞬時に綺麗に消えるのだ。


 治療を施された患者たち皆さんが、おれをどこかの新興宗教の教祖様のように崇めてくれそうなのも満更行き過ぎとはいえないのだ。


 イブさんは初めて会った時は50代のおばあさんだったが、今はせいぜい30代半ばのいわゆる『美魔女』さんである。


「キンタ殿……いえ、キンタ様と呼ばせていただきたく。是非わたくしを行商のお供にお連れください。この歳に至っても見えない魔法の神髄……のぞきたくなりました」


「ああ、いいですよ? ただし条件があります」


「なんなりと」


「イブさんのお持ちの書籍すべて、お借りしてもよろしいですか?」


「それを対価にというのであれば差し上げますが……」


「いえいえ、お借りするだけで十分です」


「わかりました。ではわたくしの自宅へどうぞ……」


 イブさんの所有する魔術書……せいぜい数百冊と踏んでいたのだが…… 


「約2万冊ございます。生涯をかけて集めたものです。ですが……これでもキンタ様には遠く及ばないことがわかりました……」


「すごい! (魔術書喫茶が開店できそうだな、こりゃあ)」


「キンタ様…… 厚かましいお願いではありますが、わたしをキンタ様の弟子にしていただけないでしょうか……」


 隣のソフィアの顔がやや怖いけど…… まあ、いいんじゃね?

 イブさんは、性格は大人しそうだが、肉体的には今や『美熟女』である。

 あるのだが……実年齢を知っているおれはなぜか食指が伸びそうもないよ?


「ソフィア…… おいおい……」

 

 おれを隠れて抓るなよ…… いてて……


「イブさんの知識……おれには多分ないものでしょう。喜んで弟子としてお迎えましょう。というよりもお互いに切磋琢磨して高めあう同胞として、よろしくお願いします」


「おお、ありがとうございます!」



 イブさんの自宅でお茶をいただきながら、今回の騒動の詳細を確認すると……


「ドラゴンが、この村を襲ってきた原因はわかりません。本来ならば山奥から出てこないはずのドラゴンが有無を言わさず暴れまわってしまったというのは、あり得ない話なんです。おそらく数百年ぶりに姿を現したんではないでしょうか……」


「話ができる種族なの?」


「伝承によればドラゴンは、人と話もできるし人の姿にも変身できるそうです。見た、話したという人に会ったことはありませんが……」


 なるほど…… これは騒動の原因を確かめに行かないとまずいかもしれんね。


「山の麓にはドラゴン族が人に変身して生活していると言われている村があるそうです。もっともこれも噂の域を出ていません」


 好んで恐ろしいドラゴン族と接触しようとする人はいないだろう。いるとすれば討伐目的の勇者か冒険者くらいなものだ。



「では次の目的地は、龍人族の村ですね? キンタ様」



「うん、その前にこの村の復興が先かな。いや、復興してもまたドラゴン来たら困るし…… イブさん、ご相談があります」


「はい! 師匠!」


 この村のかつての総人口150人のうち助かった人は約80人。おそらくおれたちが駆け付けなかったらほぼ全滅していただろう。

 聞くところによれば村長さんもなくなり、代行できるのはその息子さんかイブさんしかいないらしい。


 村の生き残りの人たちを共和国へと逃がし、国民として迎え入れる用意がある事。場合によっては共和国は帝国、魔国相手の戦争をしなければならないことを説明した。


「ここは最早人の住める場所ではありません。喜んで全住民が移住させていただきます」


 村長さんの息子さんも同意してくれたので、前回と同様国王陛下にスマホで連絡。サクッと転移させて終了です。あとは任せよう。


「さてと…… 行きますか!」


「はい、ダーリン!」「行きましょう!師匠」


 イブさんの蔵書はすべておれの無限収納に収め、安全確保のためにここからは馬車での行程である。


「どんだけですか……師匠…… 無限収納に転移魔法…… 言葉もありません」


 ちなみに馬車の内部をみてまたまたぶったまげることになるわけだが……


 こうしておれたち3人は、伝説の龍人族の村へと向かった




~共和国暫定首都(旧エルフの村)にて~



「国王陛下! 帝国の奴ら、攻めてきましたにゃ」


「なんだかむずむずするのお、国王陛下などと呼ばれては…… やはり国王はキンタ様にお任せすればよかったかのお……」


「くくくっ! まあそうおっしゃいますにゃ。あくまでも暫定。いずれはあの方に王位を譲ることになるにゃ」


「そうだの、ソフィを娶っていただければ立場上は王子みたいなもの。仮の王冠に恥じぬよう、この国をあの方が来られるまで守るのがわしらの仕事じゃの」


「そういうことですにゃ」


「ところで、帝国は何人送り込んできたかの?」


「5千ですにゃ」


「ふむ…… しばらく前ならば踏みつぶされていたじゃろうが、いまとなってはその程度どうということはないじゃろ」


「兵には、キンタ様が設置された罠と城壁に配置されたバリスタとかいう新兵器が、攻撃完了してから反撃するように連絡済だにゃ」


「半分でも削ってもらえたら御の字かな」


「残りの半分なら楽勝だにゃ」





~帝国軍、エルフの村遠征軍~



「おい……なんだあれは…… あんな城壁、聞いてないぞ!」


「閣下…… たとえ城壁があろうと、たかがエルフ。恐れるに足りませぬ」


「う、うむ……だが、さすがに兵力不足ではないのか? 参謀長」



 情報局の話では、エルフの村の総人口は約2千。多少の援軍が入ったらしいが、基本的にはその程度で、防御も何もスカスカでなんの苦労もなく落とせるであろうとのことだった。


 ところが蓋をあけてみれば、帝国の中規模の砦を凌駕する城壁があり、その上には見たこともない兵器まで見える。


「小出しはせず、全力で攻めましょう。一気呵成で踏みつぶしてやれば皇帝陛下の覚えもめでたいかと……」


「わ、わかった。作戦及び兵の配置は任す。明朝総攻撃としよう」


「かしこまりました」






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