第21話 ドラゴンの巣へ その2
翌朝のことである。
「お嬢ちゃん、誰?」
おれは、見たこともないあったこともない10歳くらいの女の子が、馬車の寝床それもイブさんが寝ていたはずのベッドで、きょとんとした表情でおれを見つめているのに気が付いた。
「あ、あたし……イブなんだけど」
「ええええ~~~!」「イブさん……いえ、イブちゃん?」
問い詰めたら、昨夜喉が渇いて冷蔵庫の中を漁っていたら『栄養ドリンク』を見つけたらしい。
確か冷蔵庫には超強力なやつが3本あったはず……
それを勢いに任せて全部飲んだら、若返るどころか幼女にまで退化してしまったというわけだ。
「キンタさん、ど、ど、どうしよう?」
「どうしたもこうしたも…… おれには戻す手段はないぞ?」
「そ、そんな……」
「イブちゃん、かわいい! 抱きしめたい~」
「むぐっ!」
いや、もうそれ、抱きしめてるだろ! ソフィア……
「ふ、服がだぼだぼ……」
「しょうがないな……【フィット】」
10歳のイブさんの大きさに合わせて服が縮小、ジャストサイズにフィットする。
「し、師匠……ありがとう」
しかし、やべえな…… この栄養ドリンクの効能知れたら…… 封印じゃな!
「お前ら…… このことは今後秘密な!」
「りょ、了解! でもいつか歳をとったときのために確保したい!ダーリン」
「わ、わかった。だれにもしゃべらない。でも……くくくっ! これはわたしの魔法研究のためには好都合?」
魔法研究に行き詰まり、そしてもう間もなく人生を終えようとしていた魔女さんにとってはもう一度数十年の時間が与えられたのである。喜ぶのも無理はない。
「ま、そういうことで頼む。ばれると命狙われるぞ、多分」
おれの言葉にふたりの喉がごくりと鳴る。
「「で、ですよね~」」
「朝飯にしよう」
~共和国暫定首都(旧エルフの村)にて 緒戦~
帝国軍5千の編成は、エルフの弓兵対策として前衛の盾持ちが3千、剣士千、弓兵千である。
城壁があるとは思いもよらず、当然攻城兵器の類もなく森の中の戦闘を予想していたために騎馬兵もいない。
事ここに至っては力攻め以外にはないだろう。
「押せや! 前衛が敵の射程圏内を越えたら弓兵も攻撃開始しろ!」
それでも城壁を見た上層部は急造の梯子は用意した模様である。第二陣の剣士隊が梯子を持って前衛の後に続く。
「がっ! お、落とし穴!」
帝国の前衛の数十名が落とし穴へと落ちていく。もちろん後続も続々と前進中なのでおいそれと止まれるものでもない。
「剣士隊! 落とし穴を渡れるよう梯子を渡せ!」
となれば城壁からの恰好の狙い目でしかない。バリスタの射程はおよそ通常の弓の2.5倍。
そして威力が違う。
梯子を渡る数人の兵士が、盾ごと串刺しになる。
「な、なんだ!これは! 矢が届く射程の2倍以上の距離を飛んでくるのか!」
城壁の上では、手動操作でバリスタを発射中である。
「うひょ~!! またまた命中! 帝国兵士様の串刺し一丁上がり!」
「いや~……こんなに楽ができるとは…… キンタ様さまさまだな」
「おいおい、おれたちの獲物も残しておいてくれにゃん」
近接戦闘に備えて見物中の猫族獣人部隊から笑いが漏れる。
「さあて、何人が城壁にたどり着けるかねえ…… 賭けでもするか!」
「乗った! おれゼロ人!銀貨1枚!」
「おれも! 100人に銀貨2枚!」
その後ものんきな賭けがあちこちで展開する。
「新型の武器一つでこうも戦場が一変するものなのか……」
通常の矢は防げても、バリスタの一撃を盾ごときで防げるはずもない。盾は良くて粉砕、多くはその盾持ちを数人単位で貫いていく。
「おお、よしよし、来たな! 落とし穴を抜けてきたぞ! 弓兵射撃用意!」
バリスタの射撃を避けなんとか匍匐前進してきた帝国兵士の背中に、今度は城内からの矢の嵐が降り注ぐ……
「ぐはっ! 」
「こ、今度は矢か!」
「た、隊長、撤退のご命令を!」
「どこに逃げるのだ! 進むも地獄引くも地獄だ」
「落とし穴へ、落とし穴の中なら矢もあのどでかい矢も当たりません!」
「む、撤退! 落とし穴の中まで撤退!」
緒戦での損耗率30%。戦闘開始数十分で帝国軍のおよそ1500人が大地の肥やしとなった。
~王都王宮にて~
「陛下……国境守備隊3千……壊滅しました……」
「砦も数には対抗できなかったか……」
「陛下…… 脱出のご準備を……」
「ば、ばかな!まだこの王都にて籠城戦で撃退はできる! 王たる我れが逃げて国が立ちゆくか~!」
「戦力比は4万5千対1万2千…… 勝てるやもしれませぬが、万一御身に何かあれば…… 陛下さえ生きて落ち延びていただければ国は再興できます!」
「ならぬ! この王都の国民を皆見捨てて生きていけるはずがない! そんな国王に誰がついてくるか!」
「で、ですが!」
「くどい! お前らこそ王室の人間を連れて脱出せよ! わしがいなくとも息子娘が生き延びればいい。頼んだぞ!」
「陛下……」
「帝国と魔国の軍がここへ来るまでにはまだ3日はあろう。可能な限り一般市民は逃がせ!」
「かしこまりました、陛下……」
まだ逃がしていなかったのかと突っ込みどころ満載な国王陛下である。
ここでご退場願った方がいいのかもとは誰も言わない。
こんな状況になるまで何をやっていたと糾弾されるべきではあろうが……
*****
「おお!あった~! あれが幻の龍人族の村落か?」
山麓の森の中に巧妙に隠蔽された村…… 生物反応を簡単に認識できるおれには何の造作もなく発見できた。
「止まれ! 何者だ! ここは龍人族の村! 人ごときが踏み込んでいい場所ではない! 帰れ!」
村を警備する兵士か……普通の成人男性よりもかなり体格のいい3人がおれたちの馬車の行く手を遮る。
「お待ちください! わたしはこの地を訪れた行商人です。怪しいものではありません」
おもいっきり怪しさ満点のおれたち3人ではあるが……
「ふむ……行商人か…… 弱そうな人族のおっさんと娘っ子が二人……一人は幼女か……」
「おい!お前ら、行商人というのならば薬は持っておるのだろうな?」
「ば、ばか! それは秘密事項……」
ふむ、なにやら事情がありそうだ。
薬が必要で外部に漏らしてはいけない事情……
おそらくケガ人または病人がいる。そしてそれは決して知られてはならない情報……
もう少し探るか……
「ケガの治療薬も病気用の回復薬も少量ではありますが、持っております。できればそちらの村での滞在を許可していただきたい」
「…… しばし待て!族長に話を通してやろう」
「わかりました。お願いします」
10数分ほど待たされたおれたちは、なんとか無事に龍人族の村へと到着した。
ちなみに龍人族の外見は、身体の大きさと皮膚の青みがかった色、それに頭に小さな2本の角がある以外はあまりおれたちと変わらない。
伝説によれば彼らは、それぞれが龍が本体らしいが真偽は定かではない。これから彼らと接するうちに判明するかもしれん。
「族長がお会いするそうだ。ついて来い」
こうしておれたちは『ドラゴンの巣』への第一歩を踏み出したのだった。
そんな呑気なおれたちとは別に、王都はまさに地獄の戦場の様相を見せていた。
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