第19話 行商再開と共和国建国
一応建国の立役者ではあるが、おれには国家運営など興味はない。
ただ、エルフの村の安全確保のために動いただけである。
なので、おれの行商再開。
一応共和国の国民確保の旅というのが、表向きの理由だがはっきりいって国の管理など元村長たちに丸投げしただけの話だ。
「王妃になる夢がorz…… でも王女の地位は安泰?……」
ソフィアの思惑は外れたわけだが、まるっきり夢が消えたわけでもない。
おれが元村長、現共和国国王の娘であるソフィアを嫁とすれば可能性は高い。
とはいえ元村長の娘など結構な数がいるらしいので、どうなるかはわからんけどね。
一応共和国として建国したのは、今後は他種族国家としてやっていきたいがため。国王を決めたのは運営上の仮の立場である。
援助と人集めはするから、あとは頑張ってね? というのがおれのスタンス。
一応共和国お抱え商人という肩書だけはもらった……
「キンタ様、次はどこへ向かわれるのですか?」
「ああ、猫族の村だったところの奥、山岳地帯の伝説の龍人族の集落を目指すつもりだ」
お互い変装したままで、行商の旅途中のおれとソフィアである。
「歩いての旅より馬車を使った方がよいのでは?」
野営の時はもちろん、安全確保のために馬車という名のキャンピングカーで寝泊まりするが、道中はやっぱり行商の旅という気分が大事なのだよ、お嬢さん!
「まあ、わたしは付いていくだけですし、ダーリン」
「道中暇なときにでも、ハンドガンやら狙撃中の練習でもすっか?」
「やります!やります! これでわたしも最強エルフ!」
そ、それはどうかなと思うけどね……段々ソフィアの性格が変わりそうで怖いかも……
「それはそうと、今回の戦争の結末はどうなるんでしょうか……」
帝国と魔国の王国侵入は、すでに宣戦布告がなされたことによって周知の事実である。
「たぶん王国は壊滅するだろうな。おれたちとしてはそれを見込んで小規模集落の住人をせっせと共和国の住人として送り込むことが仕事さ。もちろん行商しながらだけどね」
今回のエルフの村の防衛力強化のために費やしたおれの資産は約2分の1。
だからその回収のためにも行商して新規顧客開拓したいのだ。
そもそも王国も帝国も人族優先の国であり、帝国はあからさまに虐待している国である。
帝国に支配される前に、出来るだけ多くの亜人族を取り込みたい。
当面予想される、元エルフの村、現共和国での敵戦力5千は撃退できる。
問題は、王都が蹂躙された後のことだ。
おそらく王都を占領し、近隣村落を壊滅させたあとは共和国に全戦力が差し向けられるだろう。
それに対抗するためのこちら側の人員確保が緊急課題なのだ。
できれば伝説のドラゴン族なんかを味方にできたなら、共和国は万々歳である。
「ドラゴン族ですか…… おとぎ話のような…… 龍人族は見たことはありますけど」
「期待は薄だけどね。でもワクワクするよ?」
「うふふ…… キンタ様は行商しているときが一番楽しそうです」
「そりゃあ、一応商人だし、旅も好きでやってるからね。なんて言っても旅で知る未知のものほど心躍るものはないさ」
「おや? キンタ様……前方に煙が……煮炊きの煙にしては煙の量が多いような…… 火事でしょうか」
「ソフィア! 行くぞ! 火事なら商売…… いや人助けせねば!」
「は、はい!キンタ様!」
煙の上がっている地点を目指して行くと、そこはすでに建物のほとんどが焼け落ち、数十人もの村人が村の外で火傷等に苦しんで横たわっている姿があった。
「な、何があった!……」
地面に横たわる村人たちの面倒を見ているのは、明らかに『魔法使い』と思しき老女が一人だけ。
「あなた方は?……」
疲れ切った顔の、その老魔法使いの女性に声を掛けられる。
「行商人のキンタといいます。連れは護衛のソフィアです」
「行商人様でしたか……」
おれたち二人に近寄ったその魔法使いは、おそらく魔力切れ…… ソフィアに抱き着くように倒れ込んでしまった。
いや~良かった~ おれんとこに倒れ込まれたら…… 老女はおれの守備範囲ではないのだ…… っていうより村人の治療をせねば!
魔力切れと疲労のために倒れた魔法使いに話を聞くと、山岳地帯に住むというドラゴンが1体、突然村を襲い炎のブレスであっという間に村を壊滅させたのだという。
ちなみにこの村の住人の多くは、犬族を主体とする他種族共存の村なのだと言う。
魔法使いの老女は人族ではあるが、村落とは離れたところに住んでいたため難をのがれたらしい。
村の惨状を目にして、おのれの回復魔法で治療に当たってはいたらしいが、なにせ重症患者が多すぎて魔力切れを何度も起こし、助けられなかった村民も数多いとのこと。
「行商人……いや、キンタ殿…… やけどの治療薬をお持ちではないか? これほどの重症患者ばかりではいかほどの役にも立たないだろうが、わたしにできることなら何でもする。わたしの家には魔法に関する本がたくさんある。それを対価に薬を提供していただきたい」
ただでもいいと思ったのだが……対価を提供してくれるというのならば願ったり叶ったりである。
早速、鑑定によりこの魔法使いの『魔力』測定!
「はあ?!」
突然素っ頓狂な声を上げたおれにソフィアと当の魔法使いが驚く。
もちろん魔力切れを起こしている魔法使いの現魔力はほぼゼロ。
だが…… その満タン時の魔力総量は約12万!
どんだけ治療に魔力費やしたんだ!って話だが、それでも追いつかなかったんだろう。
「いいでしょう。その依頼受けましょう」
「おお、ありがたい……キンタ殿」
「ですが、対価としてお金と本以外のものをいただきたい」
「ん? それは?」
「あなたの魔力を対価として提供していただければお金は不要です。あ、もちろん魔力が回復してからの1日分の魔力で結構です」
この魔法使いの魔力1日分だけで1200万円相当である。十分ペイするだろう。
「それは構いませんが……それでよろしいので?」
「はい……では契約成立ということで……」
広場の中央にやけど用の大量の塗り薬、点滴用機材と主に水分補給のための点滴液を山と積み上げていく。
「ソフィア、ひとまず軽度な患者に塗り薬を使ってとにかく人手を確保する。重傷者はその次だ」
普通は手順としては逆であろう。
だが、現段階では動けるのがおれとソフィアだけならいかしかたない。
「了解しました!キンタ様!」
「魔法使い殿…… これをお飲みください」
「こ、これは?」
「体力、魔法力回復のためのポーションと思っていただければ」
「しょ、承知した」
高級栄養ドリンクを惜しげもなく数本与えると、魔法使いの婆さんはあっという間に回復。
いや……それどころか……わ、若返っちまったぜ!
「き、キンタ殿! これはいったい!」
「そ、それより一刻も早くみなさんの治療を!」
「わ、わかりました! 聞きたいことは後ほど!」
こうして夜を徹しての、やけど患者の治療という名の重労働を開始した3人であった。
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