第18話 王都防衛とエルフの村の強化
「村長さん! キラービーの巣を無事退治できました」
殺虫剤によって殺したすべてのキラービーとその巣を、村の広場に公開すると大きなどよめきが上がった。
「これでキラービーの脅威から村が救われましたにゃ。ありがとうございましたにゃ、キンタ殿」
「それはいいのですが、村長さん…… 実は……」
おれは王国が、帝国と魔国の侵略戦争を仕掛けられていることを話してみた。
「ふむ……そうですにゃ……そのことは聞いておりますにゃ。実は既にこの村を放棄すべく準備は整っておりましたにゃ。あとは逃げるだけというときに今回のキラービー騒動だったですにゃ」
一旦戦争になったら、この村の住人は逃げるしかないだろう。いかに獣人とはいえ完全武装した兵士数万単位に抗うすべはない。
「村長さん、ものは相談ですがいっそのことエルフの村へ疎開しませんか?」
「なんと? エルフの村とにゃ?」
「ええ、ちょっと待っててくださいね。先方に連絡取ってみます」
エルフの村の村長に猫族約200人の事をお願いしたら、即了解してもらったのでその旨、この村の村長に伝える。
「それは助かりますが、向こうへ行くにも大変な旅程になりますにゃあ」
こっそりと瞬時に移動が可能なことを伝えると大そう驚かれた。
まあ、当然だわな……
「キンタ殿は、一体全体……」
まあ、そこんとこは秘密ということで!
「実は、向こうではすでに敵の斥候隊と接触しています。できればエルフ族も信用のできる防衛のための人員は欲しているというのが現状です」
「なるほどにゃあ……ですが、我らには戦う能力はあっても武器がないですにゃ。これもキンタ殿?」
ささ、商売商売! 早速サンプルの武器を取り出す。
「これは!」
「必要に応じて『魔力』をいただければ、いくらでも武器、防具は提供しますよ?」
こら、もうおれは『悪徳武器商人』と言えなくもない。
「わかりましたにゃ。今晩全村人を集めて集会を開き相談するにゃ」
「それで結構です。皆さんの了解が取れ次第先方に向かいましょう」
エルフに猫族獣人…… いろいろ集めて人族その他の混合種族のための【国】でもおっ立てた方がいいかもしれんね……
「ダーリンは国王様……わたしはそのお妃……」
おおい! ソフィアさんや! 帰ってこ~い!
~王都、王宮内~
「何! 既に敵の斥候隊が王国内に進入したと?」
「それだけではありませぬ、陛下。既にこちらの斥候隊は全滅。報告によれば敵は国境付近に万を超える部隊をほぼ配置完了しているとのこと」
「そ、それではこちらの体制が間に合わぬではないか! 諜報部の話では敵の進軍は来年の春の予想であったのだろう?」
「はっ!」
「まずい!まずいぞ! 国境警備隊はわずか数千人。砦がいくつかあるがとても援軍が駆け付けるまで持ちこたえられるはずもない」
「目下、王都で集められるこちらの人数はおよそ1万人。敵は帝国、魔国合わせて5万の軍勢との見積もりでございます」
「エルフの援軍など数百程度。他に救援を求められる国もない…… どうする? 宰相!」
「陛下…… 防衛は我らに任せ、亡命のご決断が必要かと……」
「ば、ばかな! 我らが逃げる国などないぞ! どこへ逃げるというのだ!」
「そ、それは……」
ちなみに後世の記録によれば、この紛争に投入された兵士数は以下の通りである。
・王国軍 総数約2万(含むエルフ族援軍)
・エルフ村防衛隊 約2千
・帝国軍 王都攻略軍=3万 エルフの村攻略軍=5千
・魔国軍 王都攻略軍=1万5千
*****
猫族の人たちは、結局エルフの村への移住を決定。その翌日にはおれの転移魔法により即時移住が完了した。
「おお、婿殿! お早いお帰りで!」
エルフの村の村長も新たな移住者を歓迎してくれている。当面の防衛戦力は猫の手も借りたいのさ。
「村長さん。急いでこの村の防衛力を上げないといけません。資材はいくらでも提供します。人手のほうをお願いします」
「もちろんですじゃ」
「村長さんかにゃ? 猫族の村の村長しておりましたにゃ。よろしくお願いしますにゃ」
「これはこれは、ようこそ。こちらこそよろしくお願いします」
この後、村人総出で村の陣地と防護壁の構築を開始する。
通常であれば、月単位で行う作業、それに年予算単位で確保する資材があっという間に用意され、みるみるうちに砦にも劣らぬ強固な村が出来上がっていく。
ここはもう、おれの全財産をはたいたかと思えるほどに遠慮なく全力投入である。
約500メートル四方に渡って作られた高さ約5メートルの城壁。それを囲む水路と、さらに広範囲にわたる罠等の設置。
おれの提供した資材で作られた城壁は、おそらくこの世界の大抵の攻撃を跳ね返すことのできる強度を誇る。
そして城壁各所にはバリスタを用意した。
もちろん通販で購入したのだが、驚くなかれ! オートマチックモード搭載の矢もほぼ無限仕様のとんでも性能である。
射手がいれば、当然手動操作も可能である。
こんなとんでも兵器がおよそ東西南北各面におよそ20台づつ、計100台設置されている。
「婿殿…… これはもう王国から独立して新たな建国をしてもよさそうですじゃ」
「そうだにゃ…… 全面的に賛成するにゃ……」
「ダーリンは国王様! わたしは第一夫人! 王妃!」
いやいや、おれってばただの行商人だから! なんで国王なんてめんどくさいことをやらねばいかんのよ?
とはいえ、おれの安住の地を形成しておくという趣旨からいけばそれもありだが、国王はエルフ族の村長さんにお任せしたい!
この異世界…… 国の数がそもそも少ない。なので『建国した』と宣言すればそれだけで一応国としては成立してしまう。
乱立しないのは、それだけリスクが高いのと維持管理できるだけの資産家も強者もいないからなのだ。
「じゃあ、国王はエルフ族の村長さんで!宰相を猫族の村長さんにお願いします」
「婿殿!」「ダーリン!」「うにゃにゃ!」
こうして内輪だけではあったが、あっさりと建国することが決まった。
国名はなし。単に『共和国』と呼ばれる国の誕生の瞬間である。
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