第15話 王都ではトンズラします

「それでは、レイティシア様、ローガンさん、ミランダさん。お疲れ様でした。王都です。わたしはここで失礼します」


 王都を囲む城壁の内部へと入り、警ら隊本部前でおれは3人に告げる。


「助かったぞ、キンタ殿。この御礼はいずれさせてもらうでな」


「貴殿がいなければ、我らは無事にここまでこれなんだ。礼をいう」


「ふ、ふん! 助かったわ。でもいい気にならないでね」


「これ! ミランダ! 恩人に何を言うか」


「いえいえ、お役に立て光栄です。それにしっかりと報酬はいただいています。お気になさらずに…… 何かご入用の際はお申し付けくださいませ」


 普通の商人として当たり障りなく対応しておく。 さっさとトンズラしたいのさ。


「あとでこちらから連絡、いや王宮へ招待させてもらおう。宿が決まったら商人ギルドに伝えておいてもらえると助かる」


「わかりました。ではそのように……ご機嫌よろしゅう」


 ははは! 商人ギルドなんか寄るものかいな。

 今のところ用はないし、足がつく真似をしたいいことなど何もないのだ。

 すまんね、王女さん。


「行こうか、ソフィアさん」


「ソフィアと呼び捨てくださいませ、旦那様。うふふ……」


 いつから旦那になった?おれ……

 ちなみにえっちぃことはまったくしていないぞ、ソフィとは。

 あの大宴会で素っ裸にしてやったが、あれはレクリエーションというものなのだよ。問題ないぜよ。



「今日から旦那様と二人きり~!!!(待ってたのよ~)」


 やべ……そうだった……今日から……今夜の宿はどうすっぺか…… もうなし崩しで夫婦にされちまいそうだ。



「そ、ソフィさん……あなたはわたしの『護衛』ですよね?……」


「そうともいいますね、旦那様、いえダーリン?」


 このソフィアさん、性格も見た目もおれの趣味には合致している。合致し過ぎていて逆に『裏』を警戒している状態なのだ。


 こんなおれに、こんないい女(それもエルフ)がホイホイ着いてくるはずがない!


 頑なに己の気持ちを認めない、よろずやキンタであった。





~報告会……王宮にて~


「報告はわかった。騎士団第一護衛隊は団長とミランダを除いて全滅、危うく王女も亡き者にされるところをそのキンタとかいう商人に助けられたということだな」


「父上、その通りじゃ」


「おっしゃる通りです。そしてエルフ族との同盟依頼の任務も完了いたしてございます」


 王宮の一室ではレイティシア、ローガン、ミランダの3人と国王が会談中である。


「ならばそのキンタとかいうよろずやはどうした? 連れてこなかったのか?」


「彼は王都の宿に滞在中です。こちらから後ほど王宮へ招待すると伝えてあります」


「ふむ…… 詳しく聞こうか……」


 結局深夜にまで及ぶ報告会が続き、3人が告げる『よろずや』の能力に驚愕する国王ではあったが、頭の中はすでにどうやってその行商人を王国のために『利用』するかしか考えていなかったのは、レイティシア王女が予想していた通りである。




 報告会は、ひとまず無事終了。


「父上は、キンタ殿を拘束しようとするじゃろ」


「ええ、陛下の性格を考えてもおそらく間違いないかと……」


「そうなればこの国は壊滅するやもしれぬ…… どうすればいいのじゃ?ローガン」


「招待状はなるべく時間をかけて届けましょう。それに彼ならば早々にトンズラしている可能性もあります」


「商人であっても商人ギルドに顔を出す可能性は低そうじゃな」


「ええ、そんなへまをしそうな青年ではなさそうですし……」


「時間稼ぎはしておくか……」


「知らぬ間に行方をくらませたとなっても我らには責任はありませぬ」


「そうだな……そうしよう。ただし!なんとしてもわらわの陣営には迎え入れたい! 父上の後、この国を治めるのは兄上ではなく、このわたしだ!」


「御意!」


 秘密裏にかの行商人(キンタ)との接触と継続的な関係を築こうと決めた2人である。



*****


「王都はなかなかにぎやかだねえ」


「旦那様とデート~! ソフィアは果報者です~」


 護衛のソフィア嬢にもハンドガンを渡してある。近接武器としてはナイフは今一つ。弓ではほとんど役に立たない。


 BB弾は、普通ならば単なるおもちゃなのだがその性能は確認済なのだ。どうなってんだ?この世界と元の世界との関連性は……と思惑もないが、結論など出ないことに患っている暇などないのだ。

 生き残るには、冷徹に『現実』だけを見据えていくしかない。

 そこに生存率を上げていくための手段があるのならば、利用するだけである。


「これ……面白い武器ですねえ、ダーリン」


「気に入った?」


「ええ…… 今度、長射程用の武器も扱わせてくださいね?」


 エルフなら……きっと『狙撃ライフル』や『対戦車ライフル』なんかはたいそう気に入ってくれそうだ。

 王都を出たら今度はどこかで練習させてやろう。


 周りには警戒しつつも、なぜか恋人つなぎで手を繋いでるおれたちは、傍目にはどうみても恋人か夫婦だな。


「商人ギルドはいかなくていいのでしょうか? 旦那様」


「ああ。あそこには用はないよ。登録だけでいいのさ」


「ですが、レイティシア様がお困りになるのでは?」


「すぐにここはトンズラするから問題ない」


「王宮からの招待は無視?」


「当然! 何好き好んで王国の事情に首突っ込むのさ。間違いなく利用されるだけだよ」


「でも……」


「おれが守りたいのは、エルフの集落だけだよ。今のところはね……」


「は、はい! うれしいです~ 旦那様~」


 王都の中央広場であれこれ食材やら小道具やらを買い、おれたちは夕方には王都城壁の外へと向かう。


 さあ、面倒ごとに巻き込まれる前に脱走するべえ!


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