第11話 エルフ相手に商売!商売! その2


 エルフの村はよほど差し迫った状況にあったのか、ソフィ嬢を身売りするかわりに矢3000本の販売契約にサインした結果となった。


 このソフィア嬢、実は族長の娘さんであったりする。


 奴隷にはしたくはなかったので、おれとの専属雇用契約を結ばせていただいた。

 

 契約内容は以下のとおりである。


・雇用期間は5年

・期間延長時は新たな売買契約を結ぶ

・契約詳細内容は別途記載(雇用主の護衛、武器売買、その他の支援)

・雇用主は被雇用者に対し性的要求はしない(ただし双方の了解があれば可)

・雇用者が被雇用主を故意に死傷した場合の罰則規定

・契約の解除はどちらかの死亡または契約違反を犯した場合に自動的に発生する


 これは雇用契約とは言っているが、実質的には奴隷契約と変わらんわな。

 性的なことは不可とは言ってても恋愛を禁止しているわけでもない。

 

 族長たちの計らいで、いいところに『嫁』に行け! となったも同然であろう。


 まあ、おれも雇用期間中に、このソフィア嬢がいい娘ならば嫁にっていうのもありかもしれない。


 それにしても、身売りの代金が矢3000本ていうのはこの世界では結構破格であったりする。


 おれの概算では300万円相当でしかないのだが、身売りする場合の価格など例えエルフといえどもせいぜいが金貨20枚ほどなのだ。

 もっとも奴隷商人が販売する場合は価格は青天井(最低でも金貨500枚以上)なのだが……


「キンタ殿…… 娘を、ソフィアをよろしくお頼み申す……」


 いやあ……おれってもうこの族長の娘婿みたいなもんだろ?


 一応、今回の縁でいつでもおれはこのエルフの村を援助すること(むろん有償で)を約束している。

 ここを離れたらどうすんの?援助って話だが、おれの転移魔法でいつでも来れるので問題ないのだ。


 その話を族長にだけこっそり伝えたらずいぶんと驚かれたのは言うまでもない。


「キンタ殿は高名な魔法使い様でもありましたか……」


 いえいえ、ただのよろずや、行商人ですよ……


 すでにこの族長とその娘のソフィア嬢は、おれ的には身内も同然である。


 なので身内用の『魔道具』も渡しておく。


「キンタ様、これはいったいなんでしょうか?」


 ソフィア嬢と族長に渡したのは……そう、『スマホ』である。


 緊急の時の連絡用グッズをお渡ししたのさ。


 これでエルフの村で何かあってもすぐに連絡がつくし、親子間でもたまにはお話しできればよかろう、ということだ。


「キンタ殿……あなたは一体…… いや、聞くまい。あなただけは敵に回していい人間ではないことはこれだけでも十分理解した。いや、今後ともこの村、いえ、エルフ族との深きお付き合いをお願いする」


「キンタ様……わたくしも精一杯仕えさせていただきます」


 明日からの旅におれの護衛が増えますた!


 エルフとの商売はまだまだ続く……









~馬車内での3人の会話~


「王都へ戻りましたらどうされるおつもりで? レイティシア様」


「うむ……あの男のことであろう? ローガン」


「ええ、そうです」


「あ、あの男! 怪しすぎます! 殿下」


「あの男が怪しすぎるというのはわらわも否定はせぬ」


「ならばいっそのこと……」


「いや待て、なぜそうなる? ミランダ」


「危険は排除すべきです!」


「彼は敵と決まったわけでもないしのお」


「み、味方ともいえません!」


「敵に回したらあれほど恐ろしい相手はおらぬと思うがの」


「わたしもそう思います」


「ローガンもそう思うかの?」


「ええ、彼の戦うところを見たことはもちろんありません。ですが、おそらく戦えば必ず負けます。それも瞬殺されるでしょう」


「な!」


「騎士団団長を瞬殺とはのお、げに恐ろしき相手じゃな」


「あの男、商人を名乗っていますが底が見えないのです。おそらく純粋な剣技だけならば勝つ望みはあるかとは思いますが、彼の手の内が全く分かりません。気が付いたら倒されていたなどとなってもなんら不思議はありません」


「だ、団長…… それって……」


「ああ、ミランダ、お前ももう少し相手の能力を見抜く力量を身につけんと命がいくらあっても足りんぞ? あの男はこの王国、いやこの世界最強かもしれん」


「それほどまで評価するか……」


「敵対する場合は王国の存亡を賭けてやる覚悟が必要かと……」


「ふむ……ならば敵対はしない、こちら側に取り込むとして具体的な策はあるのか?」


「彼は王国側の戦力として使いつぶされるような『愚か者』ではないでしょう。権力、地位、金、女ではおそらく転びますまい」


「わらわが嫁に、というてもあるのじゃがな……」


「で、殿下!」


「ちとうるさいの、ミランダ。おぬしも冷静な目であの男を見よ。お主だけだ、あの男に敵意を向けているのは……」


「そ、それは!」


「ミランダ、お前の敵意を飄々として躱しているあの男、そのことの意味をしっかり考えてみろ」


「た、たかが商人でしょうが!」


「そのたかが商人にとって、お前などその気になればいつでも潰せるってことだよ、ミランダ」


「くっ!」


「話を戻そう。ローガン、どうする?」


「やはり手段1つでは難しいでしょう。できれば搦め手をいくつか……」


「わらわの嫁入りも一つの手段じゃな。適当な爵位と領地、王室御用商人としての契約…… あとはあやつの弱みを握る事かの……」


「今回同盟を結ぶことができましたエルフ族もなんらかの手を打ってくる可能性があります」


「ああ、そうじゃの、あの切れ者の族長が放っておくはずなどないな」



 商取引だと油断していた3人は、既に族長に先手を打たれていることを知らない。



「父上とも戻り次第相談するしかないのお」


「国王陛下ならば、即刻拘束せよと言いかねませぬが……」


「そうよのお……この馬車の中を見ただけで言いかねぬわ」


「それにしても……この馬車……異常ですな……」


「あの男…… どれだけ隠し玉を持っているやら……」


 いつまでも結論の出ない会話ではあったが、いつの間にか戻ってきたよろずやキンタの登場で打ち切りとなったわけである。




「キンタ殿……今晩の夕食は何かのお…… わらわの楽しみは食事だけじゃ。腹が減って腹が減って……」



 なんとも締まらない王女ではあるが、見かけ以上には優秀な王家の一員ではある。いやあるのだろう……あるはずだ。

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