第9話 目的地到着

「のお、キンタ殿……」


「なんでしょうか、レイティシア様」


「目的地へはもうすぐ着くのじゃろ?」


「ええ、そうらしいですね」


「その後のことなんじゃが……」


「おれは一人旅を続けさせていただくつもりですが……」


 ここで折れたらとんでもない騒動に巻き込まれそうだと、おれの第六感がピンポンピンポン鳴りっぱなしなのさ。


「我らの任務が終わったら……」


「さて……昼食の準備にかかりましょうかね……」


 椅子を立とうとするおれを、大の大人と美人騎士、ロリ王女の3人がかりで押さえつけるんじゃねえよ!


「キンタ殿…… 頼む。これは正式な依頼として報酬も出そう。レイティシア様と王国騎士団団長のわたしが責任をもって対応する。任務完了次第我らを王都まで送ってほしい」


「……」


 ああ、やっぱりにげときゃよかったか…… どんどん深みに嵌ってくな。


「いえ、聞かなかった、何も見なかった、関わらなかった。あなたとわたしはただの赤の他人で結構ですよ?」


「き、貴様……あ、いや……スマヌ、キンタ殿……」


 助けてもらった恩を忘れて『貴様』呼ばわりは許しまへんで、ミランダさんよお……


「極秘任務ゆえ内情を明かすわけにはいかぬ。なれど……このまま任務が完了しても我らに王都へ戻るすべがないのじゃ」


「どこへ向かわれているかは知りませんが、先方に頼んで馬車なり用意していただければよいのでは?」


「そ、それが出来れば苦労はせん!」


 いや~……おれにはそこんところの事情など知りませ~ん。


「帰路王都までの同行のみ。あ、食事代その他の経費込で金貨200枚でどうじゃ?破格じゃぞ?」


 う~ん……金貨200枚ねえ……今のおれには端金だし……


「命の保証はあるんですかね? とても物騒な任務としか思えないんですが……」


「あ、いや、そ、それは、ほ、保証する……」


「送ったはいいが報酬をもらったとたんブスリとやられたんじゃあねえ」


「そ、それは! ない! いや、ないはずじゃ!」


 おいおい……そこは明確にせないかんやろ?

 王女、それも第二王女程度の権限では、いざというときに王命には逆らえないといったところだろうな。

 逃げるのは得意だし、前金で『魔力』をいただいておこうか……

 どうせ金貨200枚なんて約束されても事後の話だし。


「わかりました。ただし条件があります」


「お、いいのか?」「じょ、条件とは?」


「今日より毎日、王都へ着くまでお三方の『魔力』を報酬としてお支払いいただきたい」


「え?『魔力』?」「ふむ……金ではなく魔力とな……」「魔力……あるかないかもわからぬものを?」


 ふふふ…… 驚くなかれ、すでに3人の魔力総量は鑑定済みなのだよ、明智君!


・ミランダ=MP:200

・ローガン=MP:300

・レイティシア=MP:9000


 合計9500*10日間=95000(950万円相当)


 圧倒的魔力保有者には負けるが、これでも十分ペイする。なんせおれは馬車、食料等提供して同行するだけなのだ。

 彼らが金貨で報酬って言ったのは200枚。魔力換算でたったの2万なのだ。



「受け入れられないとなれば、商談はご破算ということで」


「わ、わかった。それで頼む」


「あ~言っておきますが、戦闘には加わりませんよ? もし戦闘が必要になった場合は別料金でお願いしますね」


 もちろん口約束だけで終わらせるほど商人は甘くない。

 しっかりと契約書、それもおれの【契約魔法】で罰則規定まで決めてやったぜ!


 毎度あり~!!


 ちなみにおれが戦闘に参加せざるを得なくなった場合の追加報酬は1日当たり金貨10枚である。

 追加料金取られたくなければせいぜい働け! 騎士様たちよお。


「くっ! 商人風情が……」「ミランダ……言うな、聞こえるぞ」


 ああ、しっかり聞こえてるってえの。

 くくくっ! せいぜいがっぽりと稼がせていただきやしょう!


 本日の売り上げ、MP9500いただきました~



「どうやら目的地へ着いたようじゃな」


 おれたちを待ち受けていたのは、エルフの村々の住人達であった。






~王都のとある社交場にて~


「ねえねえ、聞いた? セイレーンの街の噂」


「噂?」


「そうそう、なんでも若返りの薬が発見されたとかいうやつ」


「ええ~~!! いくら何でもそれは……」


「わたしもねえ、眉唾だと思ったのよ。でもね……先日、あの街の貴族家に嫁いでる友人がこっちに遊びに来たときにさあ」


「まさか……」


「そう、そのまさかよ」


「若返ってたってこと?」


「さすがにそこまでではなかったけど、でも肌はつやつや皺もしみも消えてたのよ、きれいさっぱりと」


「それは……この世の全ての女性の夢……」


「そうなのよねえ……」


「それならば、その『若返りの薬』を提供した薬師を紹介してもらえれば……」


「そんな薬が本物なら、いくらでもお金だせるわ」


「その薬師……行方不明らしいのよ……」


「なんと! 捜索隊はでていないのですか!」


「どこへ向かったかが不明なだけで、本人の消息不明という訳でもないらしいのよねえ」


「な、ならば! いずれこの王都にも来るかもしれないと?」


「そういうこと。でもそういった情報を仕入れられるのは各ギルドだけでしょ?」


「手を回しておきましょう」


「話が早くて助かるわ」


「わたくしたち全員の夢の実現のためですもの!」


「皆さんで情報収集を怠りなくお願いしますわ」




*****



「極秘任務とやらは完了ということでよろしいので?」


「うむ……おかげでなんとか使命を果たせた。キンタ殿、改めて礼を言う」


「報酬はいただいてますから。これも立派な商取引ってやつですよ」


「ま、まあそうだな……」


「そういうことで」


「キンタ殿」


 はいはい、何でしょうか、騎士団長殿。


「エルフの族長が、おぬしに頼みがあるそうだ。商品を売ってほしいといってるが……」


 ほ? そりゃあ『金(魔力)』になるなら喜んで~


「ええ、構いませんよ。急ぐ旅でなければ」


「我らは構わぬ。ここから王都までは約10日。1日くらい延長されても今更どうということもないが、早めに報告はあげたいのでな」


「では明日1日いただいて商談をまとめてきます。出発は明後日の朝ということで」


「何から何まですまんな。わらわはしゃわーなるものを借りてもよいかの」


 ちなみにレイティシア様とミランダさんは、寝る時はおれが提供したパジャマを着ている。

 なかなか可愛いぜ。


 見たこともないデザインと色調の、可愛いげなパジャマをあれこれ選ぶ時もワイワイと大騒ぎしていたことも付け加えとく。


「おれにはないのかのお、キンタ殿……」


 騎士団長のおっさんには、『甚平』を提供した。


「これは良い! これは是非売って欲しい!」


 しょうがないので団長様手持ちの金貨3枚で売ってやった。

 仕入れ値9千円、売値3万円…… まあまあだな。かなり真っ当な商売じゃね?


 さてと……今日の夕飯は…… カレーである。

 作ってもいいんだが、めんどいのでレトルトカレーにパックのご飯を温めるだけだ。


「か~! この辛さがたまらんな」


「見た目はグロくて本当に食えるのかと思うたが…… 美味い! 病みつきになりそうじゃ……」


「くっ! ひ、否定できん……」


 くっころさんや……いい加減いちいちおれを睨みつけるのはよそうぜ? せっかくの金髪美人が台無しだろうが……

 いやあ……パジャマからはちきれんばかりの双丘……眼福じゃ!


 夕食後に出した、異世界もの定番の『プリン』……


 いや~ お替わりお替わりでうるさいのなんの…… テンプレですね。


 さて、明日の商売のために寝ますね。おやすみ~!

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