第5話 長屋の住人達 その3

 この異世界の住人達は、全くの『宝の持ち腐れ』としかいいようがない。

 MPが例え10万越えていても、魔法を使えなければ意味がないのだ。

 そして魔力が多くても使えない人がほとんどである。


 おまけに己の魔力を計る方法も、それを主導する組織も道具もない。

 おれのラノベ的知識に従えば、それをやるのは『教会』か『冒険者ギルド』等であろう。この世界のそういった組織でできることは、姓名、年齢、出身地、そして『犯罪歴の有無』だけらしい。


 ならば『鑑定』スキル持ちに! というのはもっと困難である。


 鑑定スキル持ちなど世界を探しても数えるほどしかおらず、いても自分が鑑定スキル持ちであることを知り様がないのだ。


 なのでおれが鑑定スキル持ちであることは、超極秘であったりする。知られたら命の危険すらあり得るのだ。

 

 とまあそんなわけで、折れた刀の代用品を買いたいと申し出てくれたその浪人さんには、早速通販で約10万円ほどで売ってた模擬刀『虎徹』を渡した。

 虎徹はかの新選組組長が所有していたらしいが、本物ではなかったという説もある。これを選んだのは純粋におれの趣味である。


 数回分の魔力と言った手前、1回分でいいですとも今更言えず、おれは2日分の彼の『魔力』をいただいた。

 合計240000にも上るMP……日本円にして2400万円である。


 どんだけあこぎな商売か、とは言わないでいただきたい。

 原価10万が2400万…… いや十分にあこぎではあるかな……

 死んでも『地獄』送りはやめていただきたい。

 

 おれは騙して売っているわけだはないのだ! お互いに了解を取っての正統なる取引である!WIN-WINなはず!


「こ、これは! 国宝級…… いや、伝説級の刀……」


 へ? そうなの? いや、素人のおれがみても凄そうだけど……


 いくら真剣とはいえ、たかが10万円程度の居合刀、美術品の類なはずである。


「是非試し斬りがしたい。クマさん、どこぞの騎士様が置いてった不要な鎧などないか?」


「ああ、あるある…… す、すげえな、その刀……」


 鍛冶師のクマさんも茫然と見とれている。


「クマさんもそう思うだろう?」


「ああ、そんじょそこらの鍛冶師に打てる刀じゃねえぞ、これ……」


 やっちまったかおれ…… 今更だな…… いざとなったらトンズラだ。


 クマさんの鍛冶場の裏の広場で試し斬りをすると、素浪人さんの腕もいいのだろう、鉄製の鎧がバターのように寸断されてしまった。

 刀が通り過ぎた後コンマ何秒かは鎧はそのままだったが、ずるりと遅れて分断される様はその刀の性能を物語っている。

 これで斬られたら、数秒間は斬られたことがわからないかもねえ。


 いや~、通販で買った元世界の商品が、ここまでこの世界にあわせて品質向上するとは思わんかったわ~


 その後、クマさんの魔力と引き換えにもう一本刀を購入。こちらは定価3万円ほどの安い居合刀だったが、これまた伝説級とはいかずとも『国宝級』だったらしい。


 クマさん曰く……


「おれは……この刀と同じレベルの刀が打てるよう今後精進しる!」


 うんうん……向上心のあることはいいことだよ、クマさん、頑張れ。


 そのうちあれこれ刀以外の武器も購入して、随時検証する必要がありそうではある。

 スリングショットで気絶させるつもりが、どてっぱらに穴開けたとかになったら冗談ではすまんのよ。


 長屋にはその後10日近く滞在し、すっかり食事は猫族の母子の世話になってしまった。もちろん時々食材なんかも提供させてもらったけどね。不自然にならない程度にさ。


 その間にも、よろずやとしての販売額はうなぎのぼり。なんといっても『栄養ドリンク』の売れ行きがすさまじかった。

 回復薬として使うよりも夫婦円満の役に立ったことは喜ばしいことだ。

 もはや『栄養ドリンク』という名前は変えた方がいいかもしれん。

 この数か月後に、この長屋では『出産ラッシュ』となったのは、まあご愛敬である。

 数か月後のここを訪れた時に聞いたんだけどね。


 10日分の皆の魔力で、各世帯に常備薬も十分に用意することができ、おれもひと安心である。

 きっとおれが居なくても、なんとかなるかもだ。


 ちなみに売り上げ総額は、日本円換算で2憶に迫る勢いだったことを報告しておこう。

 もうおれ、当分仕事しなくていいんじゃね? たった10日で2憶…… すげえなおい!





「こんだけ稼げたんだ、乗用車……いや馬車の一つも欲しいところだな……」


 すっかりなじんだ長屋の連中やら猫耳母子ともお別れし、街の外へと街道沿いにおれは旅を再開中なのだ。


 当初一か月ほどの滞在予定だったのだが、おれの商品が瞬く間に有名になってしまい、このままではよからぬところ(領主やご貴族様)から何かしら介入されると懸念した次第である。

 さっさと次の街に向けてトンズラかますっす。


「今度の街では少し大人しくしているか。ではでは『キャンピングカー(軽自動車タイプ)』を購入っと……」

 

 2憶稼いだおれには、数千万円レベルの出費など痛くも痒くもない。


 おれの予想では、自家用車を買ってもこの世界ではそのままの姿で現れることはないと踏んだ。

 無限収納内を確認すると、やはりキャンピングカーそのままではないようだ。


 収納から出してみると、立派な『馬車』が出現。


「馬もついてるのか? ん? ああ、なるほど……」


 一見すると普通の一頭立て馬車である。

 だが、馬はゴーレムというより精巧にできた馬のロボット。

 そして馬車の内部はまさに『キャンピングカー』

 おまけに御者付き(ロボット)である。

 安心の自動運転付かな。


「こりゃあいい。大きな荷物しょってごまかしながら旅をするのも飽きてきたからな」


 トイレ、キッチン、バス、冷蔵庫、簡易ベッド、エアコン付の馬車なのだ。当然狭いはずの馬車内は、おれの空間魔法が自動的に使われているのかかなり広い。

 馬車としての強度も、元々が自動車としての強度を有しているので防御力もそこそこは期待できる。

 遊びで武器も用意しておこうかな……



「これで嫁さんでもいればなあ……」


 ないものねだりをしてもしょうがない! 気持ちを入れ替えてレッツゴーなのだ。


 一時間ほど自動運転で街道を進むと日が暮れたので本日の野営である。


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