第4話 長屋の住人達 その2

「次はあたいんとこだ。旦那が先日から寝たきりなんだ。咳と熱が収まらない。なんとかしておくれでないかい。薬師? 治癒士? のお兄さん」


「いえ、ただのよろずや、行商人ですよ。キンタといいます」


「あ、ああ、そうかい……でもそんだけすごい薬とか持っているんなら、お偉い『薬師』の先生じゃないのかい?」


「私自身はなにもできませんよ。わたしの持ってる薬が優秀なだけです」


 このお姉さん…… 実はエルフらしい。

 見た目は普通の人族だが、鑑定してみたら『エルフ族』ってでたんだよね。多分偽装してるな。


「すまないね、キンタさんだっけか……ゴホッゴホッ……」


 旦那さんも、もちろんエルフ。

 鑑定してみると【風邪】なんだが、【気管支炎】併発している。

 このまま放っておくと【肺炎】起こしそうだとおれの優秀な【鑑定】さんが言ってる。


 ここは某総合感冒薬と栄養ドリンク、総合ビタミン剤でいいかな。


 いただける『魔力』次第。だってエルフだし、期待は出来る。


「皆さんと同じように『魔力』1日分いただきますがよろしいですか?」


「ああ、構わないよ。さくっと持って行っておくれ」


 なぜか先にお代(魔力)をいただいた。

 驚愕の8万!ゲット~! ひゃっほう!


 こりゃあ、ちゃんとしたものを提供させていただこうじゃないか。なんせ金貨800枚分だからな!


「とりあえず、これ(総合感冒薬)を朝晩3粒ずつ。今すぐこれ(栄養ドリンク)を1本。そして毎朝これ(総合ビタミン剤)を6粒ずつ飲んでください」


 栄養ドリンクで錠剤9粒を流し込むエルフの旦那さん…… 喉も腫れているのだろう、ずいぶんと飲みづらそうだ。


「げほっ……げ…… あれ?」


「あんた! どうしたんだい!」


 この光景も2回目である。


「痛くない。咳も…… はあ? おい……熱をみてくれ……」


「ま、まさか…… 」


 旦那の額におのれの額をあてて熱を計るエルフの美人妻…… ほんに仲がいいことで……くそったれ!


「熱……下がってるわ……え?」


 身体を最接近させてたわけで、旦那の下半身の『異常』にも早速気が付いた模様……


「あんた……」「おまえ……」


 見つめあうエルフの夫婦…… 2人とも顔が赤い……


「どうしたのかな? お兄ちゃん、あの二人顔が赤いよ?」


 マーガレットちゃんや……子供が触れてはならない夫婦のお約束というものがあるんだよ。


「ええっと……こほん……次にいきますか……」


「あ、いや、失敬…… 元気が急に出たもんでつい……」


 エルフの夫婦の元には、それ以外にも救急箱とセットで『傷薬』『湿布薬』『栄養ドリンク(安い方10本)』『腹痛薬』を差し上げましたよ。


「いいのかい?こんなにもらって……」


「ええ、旦那さんの『魔力』が思った以上に多かったので……」


「そ、そうかい……ならいいか…… 常備薬あれば助かるしね…… それにこれさえあれば…… 子供作り捗るかな……(ぽっ)」


 頑張れ! エルフ夫婦…… もげろ、旦那ジュニア!


「よろずやさん……いやキンタさん…… あ、あっちのほうに、き、効くのはこれでいいんですかい?」


 10本入りの箱を手に取っておれに聞く旦那と奥さん。


「ええ!そうですよ。今晩からでも頑張ってくださいね」


「お兄さん、今晩何がんばるのさ」


 ええい! マーガレットうるさい! そういうのは、もう少し大人になってからお母ちゃんに聞きなさい!


「では失礼しますね。お大事に……」




 次に案内された部屋では、いかにも『浪人』といった風情のひとりの男が正座してたさ。


 男の目の前には…… 折れた『刀』が一本。


 おれの目からみたら、それは日本で見たことのある『日本刀』……多分……



「よろずや殿…… 貴殿が持っているとは思えないが……出来たらこれに代わる武器を拙者に譲っては、いや売っていただけないだろうか……」


 長屋に住み着いた『素浪人』風な男。どこの江戸時代かい!って気がするが、目の前の男が着物を着ているという訳ではない。雰囲気だ、雰囲気!

 

「将来、仕官をするために魔物を狩って腕を磨いて来たのだが……先日ついに愛用のこの剣……折れてしもうてな……鍛冶師に頼んでみたのだが、とても手には負えぬとさじを投げられたのだ」


「代わりの武器をお渡しすることはできますが、場合によってはあなた様の『魔力』を1日分と言わず数日分いただく可能性がございます。それでもよろしいでしょうか?」


「うむ…… どうせ、この剣を売ったところで二束三文にしかならぬ。それに替えの剣など無一文のわたしには用意できるはずもない。いっそのことおのれの人生など諦めて腹を切ろうと思ったのだがな。この長屋の住人に貴殿の話を聞いてな、相談してからでも遅くないと思うたのだ」


 なるほど……剣士が刀を失い、代わりを用意できないとなれば生きていくことが難しい世界なのだ。

 人一人死んだところで事件にすらならない。


 街を出た街道や森、砂漠、山岳地帯などでは毎日のように魔物や盗賊に襲われて、人が死んでいく弱肉強食の世界である。


「先に魔力を1日分いただいても?」


「ああ、構わぬ」


 ほ! この素浪人の旦那…… まさかのMP10万越えでしたがな……

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