第2話 治験?開始

 こんな能力があるのならば、王都なりの大きな都市で店舗を構えて商売やればいいじゃないかと言われるかもしれない。

 いずれはどこかで腰を落ち着けてやってみたいとは思うが、今はこの世界のあちこちを旅したいのだ。

 まだ若干22歳が所帯じみるには早すぎると思うのは、この世界では非常識ではあるがせっかくの異世界をあれこれ楽しんでみたいと思うのはおれだけではあるまい。


「おじちゃん…… 商人のおじちゃん……」


 おれ? おれはまだおじちゃんと言われるほど歳は食っていない。

 無視して通り過ぎようとすると、追い打ちをかけるがごとく足にしがみつかれたわ。


「お、お願い…… お母さんを助けて……」


 足元をみればせいぜい5歳程度の女の子が…… おお!ケモ耳っ娘ではないか!


「おれは断じて『おじちゃん』と呼ばれる年齢ではない! お兄さんと呼びなさいね?お嬢ちゃん」


「お、お兄さん…… お母さんが、お母さんが……」


「お母さんがどうした?」


 泣いておれに縋る猫耳少女に案内されたその家には、腕と足があらぬ方向に折れ、頭から血を流している少女の母親が横たわっていた。


 聞けば、とある貴族の馬車に跳ねられ、近所の人たちに助けられて家まで運んでもらったものの既に治療は不可能と、放置されていたらしい。

 かろうじて呼吸をしているかに見えるその女性はの頭部は明らかに陥没しており、このまま放置しておけばまもなく死亡することは間違いない。


 他に家族はいないのかと聞くと、だれもいないのだという。父親は他の女の人と出て行ったらしい。

 この母親が死ねば、この子は天涯孤独……


「おれはただの行商人だ。神様でも善人でもない。お前さん、お母さんを助けるための金は持っているのかい?」


 あるはずがないとわかっていて聞いてみる。


「あ、ありまぜん! でも! でも助けてもらえるならこの身を売ってでも!」


「助かるか助からないかは関係ない。助からなくても薬を使えば金はかかる。それでもいいというのならば薬は試してやろう」


「…… 奴隷でもなんでも! このまま何もしなくても……」


 身寄りがなくなればどのみち奴隷落ちは確定のようなものである。


「わかった。金はいらない。君の魔力10日分でどうだ? 」


 え? って顔してるな、猫耳っ娘。


「金のかわりに君の魔力で代用できるっていってるのさ。急がないとお母さん間に合わないよ?」


「は、はい! お願いします! 10日分でも1年分でもお支払いします!」


 ある意味人体実験だな、こりゃあ…… いや、治験かな。

 某高額栄養ドリンク…… 日本では1本3000円以上で売ってたやつだ。


 ベッドに横たわる母親を仰向けにし、無理やり身体を起こして口移しで『某高額栄養ドリンク』を飲ませてみる。


 ああ、この人はなかなかの美人さんですなあ。役得役得……

 人一人死にそうだというのに、スケベ心が湧かざるを得ない自分自身が情けなくもあるが、だってねえ…… あこがれのケモ耳さんですもん! それに……デカい…… 何がって、言わせんな恥ずかしい。


「あ!」


 最初の一口を無理やり飲ませると、何とか残りを嚥下することが出来たようだ。


 ん? 陥没? おお! 治っちまった!

 

「お、お母さんの腕が!足が!」


 なんと……骨折まで治っちまったさ…… 内臓破裂しているらしい腹部もきれいさっぱり!


 それでも意識はまだ戻ってはいない。


「お嬢ちゃん、お母さんはなんとか助かりそうだ。だが、まだ意識が戻っていない。このまましばらく様子見だ」


「は、はい! ううううっ、お母さん……よ、よかった……」


 お兄さんもびっくりだよ!


 高額栄養ドリンク…… エリクサー並みだろこりゃあ。頭部陥没まで治るんなら、ひょっとしたら部位損傷すら回復できるやもしれん。今度だれかに試してみるか……


「お兄さんは、商人ギルドの宿泊所にいる。何かあったら来ればいい。また明日の朝、様態を見に来る」


「は、はい……わかりました」


 このままここに泊めてもらってもいいんだが……


「ここに泊まっていただいてもいいんですけど……」


 うん、まあね…… でもさ、いろいろと内緒ごとが多いから、お兄さんはここにいるとま、まずいのだよ。


「ただ、10日分のうちの今日の分だけいただいていいかな? 君の『魔力』」


 本人の了解を取っていただいた『魔力』…… おお!なんと!2万!


 代金分10回魔力回収すればMP20万! くくくっ!


 3000円程度の栄養ドリンクが、2000万円! や、やめられまへんなあ!

 それにしても、こんな幼い子がMP20万とは…… これまた驚きである。


 回収した魔力は、おれの無限収納内に魔石として収納される。だからなんの手間いらずなのだ。便利な事この上ない。


「じゃあ、また明日くるよ、お嬢ちゃん」


 可愛い手を振って、耳としっぽをフリフリさせて玄関まで見送ってくれる猫耳娘……かわええのお……

 抱きしめてやりたいが、今それをやったら『おまわりさん』に捕まりそうなのでぐっと我慢なのだ。




 翌日、獣人親子の住む長屋では大騒ぎになるのだが、この時点でおれはそのことを知るはずもない。


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