よろずや放浪記 IN 異世界
壬生狼
共和国建国 編
第1話 プロローグ
おれの名前は『キンタ』
強制転移させられたこの【異世界】で、よろずやをやっている。
固定型店舗なしの、街から街へと渡り歩く行商人だ。
何をどうやって仕入れて売っているかは追々説明することにしよう。
この世界は、簡単に言うと【剣と魔法】のファンタジーな世界である。
ただし、ほとんどの人たちは魔力はあっても魔法は使えない。
使えるのはほんの一部の『魔法使い』と呼ばれる人々だけである。
市井にはほとんど見当たらず、その多くは国に召し抱えられるか、貴族などに専属で雇われているらしい。
おれがこの世界に飛ばされた際にもらった主な能力…… それは以下の3つである。
【鑑定】【無限収納】【言語理解】
そして何を隠そう、【全属性】が使える魔法使いでもあったりする。
まあ、なんだ、表立って宣伝するような話ではないので極々一般的な『行商人』の振りをしている。
背中には一応、大きな荷物を背負い服装も一般的な商人の恰好でしかない。おれを見て【異世界人】などと思う奴はいないだろう。
そして、おれが世界で『冒険者』ではなく『商人』になったのはもう一つの能力によるところ大である。
【通販】
・現代地球でお世話になっていた某通販サイトからなんでも仕入れ可能
・決算は異世界通貨、商品または『魔力』にて可能
そうなのだ! おれはあの日本で利用していたサイトからなんでも仕入れが可能なのさ。
購入すればそれは自動的に無限収納へ届けられる。
それも、容器等はこの世界で使用されている『素材』に変換されて納品されるという、なんとも便利な機能付きである。
プラスチック製容器は木製や陶器製になっていたり、場合によってはガラス製になっていたりする。
実質中身以外は、この世界で不自然さのないように修正が加えられているのだ。
さらに!さらに、なんと! 決済は『魔力』でも可能!
この世界の人々は、魔法が使えないのになぜか『魔力』は有していて、魔力平均値は大体100程度。
魔力100は、およそ金貨1枚(日本円換算で約1万円)
この世界で一般的に使用されている『回復用下級ポーション』が約金貨1枚で買えるといえばおわかりいただけるだろうか?
そんなとっても便利な能力を与えられて飛ばされたこの世界は、まさに中世欧州といった感じである。
魔物、亜人などなど、およそファンタジーノベルで出てくるものは何でもありの世界。
もちろん人の命など芥子粒のごときである。
そんな世界で、ソロで行商人などやって生きていけるのかと問われれば、普通は護衛なりを雇うしかないのだが、そこは全属性持ちの魔法使いならば問題はない。
「おい! よろずや! 昨日のあれをもう1ダースくれ!」
「へえへえ! 毎度どうも。金貨12枚になりやすがよろしいので?」
「あ、いや10枚しか用意できなかった。すこしまけてくれぬか?」
「わかりやした。ではあなた様の魔力をいただきやすが……」
「うむ…… それで頼む……」
金貨1枚分の魔力は100程度だが、おれは魔力で清算する場合は、当人の魔力量如何にかかわらず満タン1回分をいただいている。
魔力保有量が100であろうと10000であろうと金貨1枚分である。どうせ本人はどれだけの魔力量があるかなどは知らないのだ。
たまにハズレ(魔力量1とか)がいるが、当たりも多い。
先日は魔力量10万とか大当たりだった。これ金貨1000枚分……1000万円相当である。
それに魔力を吸い上げてゼロになったところで生命に関わるほどのものでもなく、翌日には全回復するのでなんら問題もない。
現金を持っていない『貧乏人』にも優しい商人なのだ、おれは。
こっそりとおれの所へやってきた男が求めてきた商品。
それは元の世界では、10本で千円にも満たない『栄養ドリンク』(チオ○タとかリ○Dとかの類)
おれがこの世界にやってきてわかったこと……それは元の世界の商品がこの世界の住人にはとんでもない効果を発揮するということだ。
ただの栄養ドリンクは、効果としては『上級回復薬』並み、さらに『精力』を大幅に高めてくれるのだ。
「奥様も喜ばれたのでは? ひひひっ!」
「あ、ああ……すごかったぞ…… 久々に若返った気分だ。もうこれなしでは生きていけんかもしれんがな……」
なんとも言えない満足そうな表情の中年男性である。
安い栄養ドリンクでなく、高額なやつを使ったらどうなるか…… 実験体がどこかにおらんかね……
「よろしかったらこちらもお試しいただけませんか? いえね、サービスですよ、サービス」
「お、おお!そうか! ありがたい! 今後もひいきにしてやるぞ!」
「ええ、お願いいたしやす。あと1か月ほどはこの街におりやすので……」
商人ギルドに在籍している行商人は、基本的には商人ギルドの簡易宿泊施設がただで使用できるので、食費等以外は案外金がかからない。
「お知り合いに宣伝していただけるとのこと……そのお礼も兼ねていますのでお気になさらずに」
「うむ、うむ! 任せろ。大量発注するときは頼むぞ!」
「ええ、ええ、わかっておりやすとも。よしなに……」
こうやっておれは訪れる街々でお得意さんを増やしつつ、行商する『異世界生活』を選択したのだった。
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