第40話 婚約の儀 と 王家の秘密

 翌日の深夜異世界営業時間に、国王並びに王妃殿下を交えてコッコさん、いやココテリア第一王女様とおれの婚約の儀が交わされた。


 だいたい王女の婚約となれば、国を挙げての祝い事としてお祭り騒ぎではないかと思うのだが、今回はこれでお終いとのこと。


 国民には、王女が婚約したことだけが披露されるだけらしい。

 いずれは王都に行くこともあるだろう、その時に顔を見せてやってくれと言われただけだ。


 さすがに結婚式は大々的にやるらしい。


 エルフとのけこ~んなんて夢のまた夢であったわけだが……


「エルフって長命と聞いてますけど……そうなると自分が早死にして王女様を未亡人にしてしまいますが」


「ユキ殿……これは王家の秘密なのだが、決して漏らしてもらっては困る……」


 エルフ族王家の秘密とは……


 エルフの王族と結婚した人族は、その寿命が二倍から三倍に伸びるのだそうだ。


 これが知れ渡ると、人族が支配する各国からパルティア王国王族が狙われることは必然。


 そして王女についてだが、実年齢は三十後半…… 見た目は二十代のお嬢さんだったんだが、ほぼおれと同じだったとは……


「となればの、ユキ殿の寿命が延びれば、王女ともほぼ一生を過ごせるということになるでの」


「それに王女とはいえ我が娘……行き遅れにつき誰も貰い手が……」


 王妃のその言葉にキッっと目を向けるコッコ王女……


 コッコさんは、見た目はおれのドストライク! 細目でそれでいてしなやかな強さを感じさせるその身体は、バランスのとれた体型なのだ。


 胸もお尻も大きすぎず小さすぎず…… 是非ともお相手願いたい女性ではあったのだ。


 だが……致命的に『家事』はできない。ほぼ全滅……


「でも、そこはほら…… ユキさんがフォローしてくれるでしょうし……」


 それはフォローとは言わぬ。丸投げというのだよ、お義母さん……


 今も醤油団子と三食団子を、際限もなく食べているコッコさんと国王陛下……


 それにしても四十にしてついにおれも結婚である!


 いや再婚ですけどね……


 結婚後は、おれとこの店で暮らすことになる。

 そのうち小雪さんたちのいるあの村のおばあちゃんたちにもお披露目しなきゃだな……




*****


 数日後のこと……



「無銭飲食、住居不法侵入、窃盗、暴行未遂に傷害罪等々数え切れないほどの罪状にて捕縛された三人がいると、警備隊のものから報告がありました」


 ん? 三人?


「通常ならそのまま『犯罪奴隷』として奴隷商人の元へと連行するのですが…… 服装があまりにも街の住人とは違っていたということで一旦は保留としてご報告に参った次第です」


 異世界営業時間中に、騎士団員の一人から報告を受けたのだが、どうも三人の容姿を聞くところ失踪扱いになっていた春菜ちゃん親子らしいのだ。


「母親と思わしき女性の、あまりにも口汚い暴言の数々に警備隊員も辟易しておりまして……」


 いかがいたしましょうか? と視線で訴えてくるその騎士団員の目は、すでに常連組が囲んでいる鉄板焼きに釘づけである。


「ご苦労だった…… お前も食べていけ。うまいぞ~!」


「あ、ありがとうございます!団長! 仲間に自慢してやります! はふ~」


 報告の終わった団員はお任せして……


「連れてきてもらったほうがいいみたいですね」


「店長……あの親子……よく生きてましたね……すげえサバイバル能力っすわ、パねえっす!」


 おれも全く同意である。少なくとも数日間は、異世界に放り込まれて生きながらえていたわけである。


 どうやって生き延びたのかじっくり聞いてみたい……が、あの母親はご遠慮申し上げたい。


 それからさらに三日後……


 深夜の営業時間に、記憶の中にあるあの性格悪そうな母親と春菜ちゃん、そして気の弱そうな、いかにも官僚ですっぽい男性が店へと連行されてきた。


「臭い……すまんがすぐに風呂へ放り込んできてくれ」


「は、はい、店長…… 確かに……ウホッ!げほっ!」


「し、失礼な! 確かに風呂にも入れず、水浴びさえできなかったのは確かです! でもそれはレディに対して失礼極まり「早く連れてけ!」「はい」ないです!」


 なにいつまでも気取ってるんだか、このばばあ…… いや春菜ちゃんはかわいそうだけどね……


「す、すませんでした……」


 ぼそりと頭を下げながらつぶやく旦那さん…… 多分二回りも三回りも小さくなってしまったのかもしれない。


「し、師匠…… た、助けてくれてありがとう」


 いや、まだ弟子にした覚えはないんだが…… 早く風呂へ行け!





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