第39話 親子失踪す
森の中の砦という雰囲気になってきたおれの店の周辺であるが、訓練用の騎士団小隊が常駐するようになってからは、王家のご用達商人がこれまた常駐するようになった。
この点については、もちろんおれの了解があっての事なので特別問題はない。
日中に間違ってもおれの店への侵入さえ試みなければ、お互いに危険なことはないのである。
まあ、早い話がその商人というのはモロトフ商会なわけだが……
さすがにモロトフ商会のトップが常駐するわけにもいかず、常駐しているのは結局はミッキーさんだったりする。
こんな森の奥のなにもないところに常駐派遣とかいいんですか?と聞いたら、はい問題ありませんと答えてくれやがりました。
なのでおれからは何も言うことナッシング。
「ここに職人さんたちを常駐させて、街を作りたいと思ってます。それには商店、宿屋、食事処なんかを充実させたいので許可お願いします、ユキさん」
え? そういうのって国王様に許可もらうんじゃないの?
「いえ、ここはもうユキさん所有の土地として王国で登録されていますので……」
お? ひょっとしておれは領地持ちの平民ってことですかい?
「いえ、間もなく連絡があるはずです。今回の戦を収めた貢献によって叙勲の手筈です」
むう…… なんでその話が王様から直で出てこないかは疑問なんだが……
それにしても『街』かあ……
開発のしようによっては難攻不落の城塞都市兼娯楽の街を作れるかもなあ。
この日の夜食会は、たまたま不在だった国王陛下以外とはいつものように顔合わせ済である。
*****
翌朝、いつものようにご近所の小雪ばあちゃんが、不安そうな顔でおれのところへやってきた。
「小雪さん、どうしたね?」
「ユキ店長…… 娘夫婦と孫の春菜が昨日の夜、どこかへ出かけたっきり帰ってこない……」
「え? 三人で?」
「そう…… 娘婿は夜遅くに到着すると、すぐに娘と何やら話をしとったんだけど……その後、春菜を無理やり起こして行先も告げずにどこかへいったんだわ……」
正直なところおれにはあまり関係ない話にしか思えないのだが、一抹の不安はあるのだ……
「ケンちゃん、裏口のセキュリティってどうなってた?」
「ああ、それなら……あの転居騒ぎで裏口だけは大したセキュリティかけてなかったです。確か南京錠が付いてただけ…… ってまさか!」
「ちょっと裏口確認してこよう!」
急いで二人で裏口を見に行くと…… 案の定、南京錠は破壊されており、侵入者があったことを物語っていた。
「親子三人で忍び込んだんですかね…… よりによってあの時間帯……」
「可能性は高いな…… もうすぐ春とはいったって、今回も富士山山頂なんぞに強制転移させられていたら助からんぞ」
「ま、まだ決まったわけじゃ……」
「今のところは何とも言えんけどな……」
「この村には警察もいませんし…… 放っておくしかないんじゃ……」
「ああ、すべてが推定でしかない。そのうち何かわかるかもしれん。ネットのニュースは注意しておこうか」
「はい……それにしても……他人の店に侵入とは…… 春菜ちゃんもバカな親の下で大変だな……」
この親子三人の失踪事件は、後日意外な形で真相が判明することになるのだが……
「ユキ殿…… 申し訳なかった。叙勲の話はケロッと忘れておったのじゃ」
頭を一職人に下げる国王陛下である。ふ、不敬罪とかにならんよね?
「すでにユキ殿は、パルティア王国下級貴族として叙せられております。諸事情により他貴族や王国幹部へのお目通りは無しです。異例なことではありますが……」
宰相閣下が補足説明してくれる。
「領地はの、この森をいくらでも開拓してくれれば、すべてユキ殿の領地と認めよう」
いや、領地ったって、人が…… 領民がおらんでしょうよ…… 今のところ一人……
「やった~! ぼくは十七歳にして貴族の第一の部下ってことですよね! それっていずれぼくも貴族になるチャンスが!」
「そうだの…… チャンスは大いにあるな、ケン殿……」
今にも飛び上がらんばかりに喜ぶケンちゃんである。無理もない。
つい先日まで『ニート』になりそうだった、高校中退組である。
それが近き将来、ご貴族様になれる可能性が出てきたのだ……
「それで、ついでといってはなんじゃが…… 」
ん? また厄介ごとですか? 国王陛下……
「そこで、餡子で口の周りをべたべたにしておるココテリアを……」
ココテリアを?
「嫁にもらってくれんか?」
当のコッコさん…… 唖然として、顔を真っ赤にしたまま口から餡ころ餅を落として固まってしまったとさ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます