第32話 異世界版O157の行方 と 騎士団新装備の性能
異世界版O157は、おれの予想を超えて、一気に収束したようだ。
さすがに死者ゼロとはいかなかったものの、十分な成果だったと自負している。
王宮での対応も、騎士団、モロトフ商会、王都薬師ギルド、ハンター教会の協力もあっての事である。
何よりも今回の一件は、この世界の衛生管理の概念が導入されたことが一番の成果だと、エドモンド宰相自らが吐露していた。
今後は、王都を中心としたインフラ整備、特に飲料水の浄化設備、糞尿の管理体制、石鹸などの商品の流通と一般市民への啓蒙教育を、どんどん進めたいとのことだ。
まあ、協力してくれと言われれば、おれはもちろん拒否する気はない。
大したことは出来ないだろうが、情報は大事だよね。
今回の騒動に当たっては、常連組の活躍と苦労は相当なものだったと想像できるのだが、ここでは詳細報告は省く。
なぜかと言うと、一難去ってまた一難、新たな問題が上がってきているからだ。
以前から、王国騎士団への討伐遠征依頼はそれなりの数があり、逐次騎士団長をはじめとした面々でどうにか解決できていた。
ところが、最近では討伐依頼がなぜか急増…… そして討伐対象の魔物が、一ランクも二ランクも上がってきていたのだ。
おまけに討伐が難しくなってきている要因として、ハイオークのような統率可能個体が出現してきたことがあげられる。
ただでさえ魔物たちの個体としての戦闘力は、人族や亜人たちの上をいく。それがひとたび軍隊のように統率されて攻めてくるとなれば大問題だったのだ。
そこで、当面緊急課題として騎士団の防御力と移動能力の向上を目指す話になったのは、無理からぬ話である。
特に、最近のそのような情勢から怪我人、重傷者を含めた死傷率がうなぎ登りだったからだ。
それは騎士団だけではなく、民間の魔物討伐組織体であるハンター協会でも緊急課題でもあったのだ。
騎士団の装備というのは、ひたすら重い。それは防御力を高める上では仕方のないことなのだが、そのための機動力は犠牲にされているといっても過言ではない。
金属製アーマーも重いのは重いのだが、その下に着こむ『チェーンメイル』というのが、バカにならないのだ。
これをインナーとして着こむことで、防御力は跳ね上がるのだが、その重量ゆえに疲労度はあっという間に溜まり、移動も困難、おまけに日中の暑い日などは地獄のような暑さを経験することになる。
そうなれば、飲料水は余計に用意が必要で、荷駄隊の負担も予算も増える。
そこで今回脚光を浴びたのが、騎士団長が個人的に装備していた『ケプラー繊維』と『チタン製内貼り装甲』であったのだ。
ケプラー繊維で編み上げたインナーを着ることで、軽量で対火力、対刃、対衝撃性能の底上げと浮いた分でプレートアーマーの防御力アップを図ったのである。
昔ならいざ知らず、この二種類の素材はネットでも購入できるし、値段もさほど高額というわけでもないので、サクサクと大量購入を決めたおれである。
金は……どうせ、予算は余っているのだ、じゃんじゃん買おう。
そして、騎士団全員に新たな装備が配布され、その後の討伐遠征では、その違いは誰の目にもはっきりと示されたのだ。
基本的なインナーが成功を見せたため、ケプラーを使用した防具は、身体末端部をも保護する手袋やシューズ、脚絆等の開発へと向かっている。
「こりゃあ良い! 騎士団長、疲れ方が全然違うし早く動ける。致命的なケガはしにくい上に、火属性魔法への耐性もアップとなれば向かうところ敵なしですよ」
「あまり頼りすぎるなよ? あくまでも命の保険と考えておけ!」
部下をたしなめる騎士団長も内心ほくほくである。
討伐遠征が増え、成果もあがればおのれの給与もおおいに上がるからである。
結婚間近な身には喜ばしいことなのだ。
「そういえば、団長、ご結婚おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう。ようやく念願かなうわ……」
「随分待たせたそうじゃないですか…… 奥さん、ってかまだ奥さんじゃないか……」
「うむ…… だいぶ我慢させてしまった…… お、そうだ、お前らにいいものをやろう」
今では正常な『男』として生まれ変わったバルデスが取り出したもの……
『バイアグ○』であった。もはや彼には不用品。
「なんすかこれ…… あ、あ、例のやつ…… あざ~っす! うほっ!」
噂だけが飛び交っていた『幻の秘薬(バイアグ○)』
「こ、これで……おれも嫁さんがもらえる……」
涙を流して喜ぶ部下たちであった。
飲み過ぎると死ぬぞ…… 使用上の注意だけは忘れない騎士団長様であった……
(注:筆者はケプラー繊維とチタン板金の正確な強度については知りません。異世界ではなぜか性能アップしていたくらいに考えておいていただければ幸いです。あしからず)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます