第30話 第二襲撃事件
「第一小隊、第二小隊、準備よし」
ここは日本の都内の某商店街のとある店の前。
店の名前は『ユキの時計修理店』である。
時刻は夜中の零時数分前……
各小隊長の報告を受ける男は、この国では極秘扱いの特殊部隊の中隊隊長である。
「突入一分前!」
そう、彼らはユキの店へと夜間襲撃を試みせんとしていたのだ。
商店街には誰もいないであろう深夜零時ジャストの襲撃決行……
事の発端は数日前に遡る。
都内某会議室にて会議中の二人……
某民放テレビ局室長と某内閣公安委員会委員長のふたりである。
「で? おたくの撮ったこいつらは、どうやら本物らしいと……」
「ええ、偶然にも撮影できたわけですが、その後の彼らの行動を追いかけた様子をみるとただのコスプレーヤーではありえないと結論付けました」
「その理由は? 話して見ろ」
「まず、彼らというか彼女らは現代の日本ではめったに見られない護身用の武器をそれぞれが所有していました」
「ふむ…… だがそれは、どこぞの外人VIPがお忍びでやってきてもあり得た話だろう?」
「ええ、そうですが……もちろんそれだけではありません。決定的だったのは……」
「なんだ…… ここは防諜用施設だ、遠慮はいらん。外部に声が漏れることはない」
「は、はい…… 彼らは我々の追跡を気づいていたようです。時折追跡している社員に向かって遠くから視線を飛ばしてきたと言ってました」
「……続けろ」
「そして最後の夕方、取材を申し込もうと数人掛かりで我々が取り囲んだ時です……突然消えてしまったのです、彼らは……」
「ん? 消えた? 奴ら全員がか?」
「はい……その場に残されたのは我々だけ…… ですが、その後件の店にも張り付かせていた社員の話によれば、彼らは何事もなかったかのように店へと戻ったそうです」
「時系列的にはどうなのだ?」
「我々が彼らを取り囲み、逃げられてから帰宅するまでの時系列的には問題はありません。ですが少々早すぎることが問題だったのです」
「瞬間移動でもしたというのか!」
「ええ、まさにその通りなのです。とても信じられない話でしたが、我々のトップもそう結論付けました」
「むう…………わかった…… このことは内密に頼む。これが真実であれば国を揺るがす大事件だ。上奏してこちらで対応する。ごくろうだった」
「え? 我々の取材は続けてもよろしいんで?」
「国が預かると言ってるんだ…… わかるな? (命は大事だろ?)」
その言葉に膝ががくがく震え出す民放局室長であった。
余計なことはするなよ?命の保障はできないよ? という無言の圧力を、理解できないほど無能でもなかった男は命拾いしたのだった。
ワープ、瞬間移動、転移等々 色々な言い回しでもってSFの世界をにぎわしてきたものだが、これを他国に先駆けて実現できたならば、それはもう世界の覇者になったも同然。
核兵器だろうが、どんなに強い軍隊であろうが、すべては全く意味のない過去の遺物と化してしまうだろう。
なんとしてもその秘密をあばき、手に入れなければならない。
そう決意した内閣公安委員会委員長が、内閣総理大臣、防衛省トップと極秘会談を行ったのはこの数時間後の事である。
そのころ、某ネット掲示板では、相も変わらず『嘘か真か』論争が繰り広げられていた。
ユキが知らぬ間に某動画サイトでは、数多くの隠し撮り動画がアップされ、すでに都内某商店街の某店に在住していることは突き止められていたのだ。
もっとも動画がなくとも、民放ニュースで紹介された商店街の所在地さえ知っていれば何ほどのこともない事実ではあったのだが……
暇を持て余した『ニート』軍団が同じ目的遂行のために一時的に組織化され、ユキたちの所在を追っていく。
さすがにこの状況を理解できないほどユキもバカではない。
テレビ局員に囲まれたその日以降、外出することは一切なく店も日中といえども固く鍵をかけ引きこもったのである。
そして冒頭部分に戻る。
ユキの店から漏れる灯りが、消えた瞬間……
「突入せよ! 絶対に殺すな! 全員無力化し捕縛後撤退する!」
再度、命令を徹底させるためにあえて無線連絡を行う中隊長であったのだが……
突入時間がまずかったのだ、非常に……
この夜、ユキの店に突入した特殊部隊隊員数十名は、翌朝『富士山山頂』の山小屋内にて発見されたという。
よりによって異世界営業中の時間帯に突入をかました男たちは、強制転移させられたのだった。
それでも同じ日本国内の、それも海でも湖の中でもなかったのは幸いであろう。
命だけは助かったのだから…… ただし全員が凍傷のために長期入院を余儀なくされたことは付記しておく。
真冬の富士山山頂…… まさにガクブルものである。
こうして数日に及んだ、コッコをはじめとする異世界人の『異世界』観光旅行は、終わりを告げるのだった。
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