第28話 某民放局の朝のニュース と 某掲示板での騒動の件

 おれは今時のテレビは見ない男である。かといってネットの情報もそれほど収集しまくっているわけではない。


 なので…… 初めてコッコさんたちを商店街に連れ出した日の様子が、たまたま翌日の某民放局の朝のニュースに流れたことを全く知らなかったのだ。


 ニュースではさらりと流されていた、エルフのコスプレーヤーらしきその姿と猫獣人のあまりにもリアルな様子が、某巨大掲示板でも大論争を巻き起こし、某動画サイトでは動画アップ後数日にも関わらず、すでに百万アクセスを超えていたことも当然知らない。



 これを発端として、密かに国の某機関が動き出したことも当然知るはずもない。





~避難生活第二日目~


「え~……では本日は、わたくしが皆さまのご案内をさせていただきます。佐伯健二と申します。よろしくお願いします」


 佐伯健二、十七歳。

 おれが新規雇用した『ユキの時計修理店』の店員である。


 ハロワやらなにやらあちこちに求人広告を出しておいたのだが、運よく希望の人材を見つけられたのだ。


 年齢性別経験不問。ただしコスプレに興味がありコスプレーヤーに偏見を持たず秘密厳守ができる人。


 というのが募集の条件だったのだが、早速応募してきた彼をその人柄をみて採用したのだ。


 某進学高校の中退組である。


 面接時間に一時間以上を要したのだが、話をしてみると若いにも関わらず色々な知識が豊富で、年代の違うおれとさえ会話が成り立つほどなのだ。


 それに異世界物の小説に興味をもち、コスプレヤーに偏見などなく、出来れば異世界で暮らしたい。

 もちろん秘密は絶対に守ると契約書はもちろんのこと、己の全財産である、とある『オタク』の象徴でもある物を『人質』に提供すらしてくれたのだ。


 まあ、同じ人種であるおれとしては、彼の言を百%ではないにしろ信用したわけである。


 これ以上の人材はなかなか見つからないだろうというのが、正直なところでもあったのだ。


 というわけで……


 今は、都内の観光バスに乗り込んでいるのである。


 誰と? そりゃあ決まってるでしょ…… 異世界人の方々とですよ。


 何にしてもおれ一人では手に余るのである。


 佐伯健二…… 今後は『ケンちゃん』と呼ぼう。


 早速ケンちゃんの初仕事である。


 ちなみに彼の給与は、三か月の使用期間中でも『大卒並み』である。


 彼にしてみれば破格の待遇であろう。


 ひょっとしたらただの『引きこもり』にさえなっていたかもしれない彼である。




 観光巡りは、都内はとバスなんかの定番コースを一応網羅している。



 ここでおれは、あちこちの観光地での出来事をさらすつもりはない。


 宰相の奥様が上野の不忍の池でおぼれそうになったとか……


 渋谷の交差点で人の波にもまれてつぶされそうになったミッキーさんの話とか……


 新宿でホストの客引きに会い危うく引き込まれそうになったバルデスの婚約者の話とか……


 ジェット旅客機の飛び上がる様子を見て、『弓をもって撃ち落とせ!』などと口走る王妃様の話とか……


 東京タワーの見晴台から飛ぼうとしたコッコさんとか……


 車の波をみて、全員で短刀を構えたとか……

 そのせいで警官に追いかけられそうになったとか……

 

 上野の動物園でライオンに真剣に語り掛けるミッキーさんとか……


 数え上げればきりがない……


 『恥ずかしい』という言葉はおれの辞書からは消滅したらしい。





「て、店長…… どっと疲れました。勤務時間過ぎたら、今日は帰って早々に寝ますわ…… まるで本物の異世界人みたいじゃないですか皆さん、可愛いけど……」


「ああ、確かに可愛いけどな…… ケンちゃん……明日も頼むぞ! ……」


「は、はい……善処します……」


「……逃げるなよ…… 人質がどうなっても知らんぞ……」


「ひ、ひどい…… 店長……」



 せっかく捕まえた美味しい協力者…… 逃がさんでえ!




 そんな一日を過ごした一行であるが、密かにあちこちで極秘に動画や写真撮影されていたことには気づかないのであった。





~サイトで語られる『本物か偽物か』論争~


 エルフの女性!猫獣人の娘(眼鏡っ娘)! たちは、本物か偽物か!


 特定班は急げ! 写真と動画の真偽判定と彼女らの住みかを突き止めろ!




 歯車はゆっくりと大きく回り始めるのだった。


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