第25話 王都危うし! ついでにおれの店舗も危うし!

「ユキ殿…… 最近王都のあちこちでよからぬ病気が流行っておるようなのじゃ…… 始めは単なる『食あたり』かと思っておったのじゃが……」


 どうやら、おれの懸念は悪くも当たってしまったらしい。


「症状は同じなのですか?」


「うむ…… 宮廷薬師の話では、腹の真ん中あたりの痛み、下痢、それも血の混じった便らしい」


「熱はどうですか?」


「発熱した者はほとんどいないと聞いている…… 思い当たる『病名』があるのかのお、ユキ殿……」


 先日指摘した衛生管理の問題や、症状を聞き限りでおれが想像した病名は……


 O157(腸管出血性大腸菌)である。


 これがコレラとかになるとかなりやばそうであるが、一応便採取して検査してもらうか……


「確定的なことは言えませんが、すぐに誰でもいいです、患者さんの便を採取お願いします。それと……重症者の血液採取と尿の採取も」


 注射器がない異世界である。仕方がないので指かどこかを切ってもらって血液採取してもらうしかない。対象者は気の毒であるが……


「わ、わかった……宰相、手配を頼む」


「ユキさん、この病気は治せるのですか?」


「初期段階ならこちらで用意できそうな薬(抗生剤)でなおるでしょうけど、基本的には予防と罹患者の水分摂取、それに安静がメインになります」


「よぼう? りかんしゃ? あんせい?」


 まったくチンプンカンプンらしい。 まあ当然と言えば当然か……


 さらにかみ砕いて説明する。


 生水は沸騰させてから飲むこと、食事前には必ず手を洗うこと……いや待て、石鹸とか消毒液とかないだろ……どうするか……


 さらには患者の水分摂取を頻繁に行い、異世界でも流布している下痢止めや痛み止めは飲ませないように指示する。


 これで誤診してたら殺されかねんな……とはいえ予防措置は必要なことと割り切ろう。


「せっけん? なんぞやそれは……」


「国王陛下…… 今回の病気は……」


 目に見えない病原菌が原因であること、それをなくすために石鹸というもので手を洗うことが有効であることを何とか理解してもらった。


「よかろう、大量発注しよう、全市民に配布できるよう準備する」


「わかりました。明日の同じ時刻までに用意しておきます」


「採取した物も明日までに用意しておく」


「よろしくお願いします」


 こうしていきなりではあるが、異世界での疫病との闘いの幕が切って落とされたのだった。





~数日後~


「やはり検査結果は『O157』と判定されました。つきましては『薬』『石鹸』『消毒液』をお渡しします」



「うむ…… まだまだ足りないであろうがの…… 引き続きよろしく頼むよ、ユキ殿」


 O157は現代日本でならば、それほど致死率が高い病気ではないのだが、この異世界の衛生設備と概念、それに食料事情からくる免疫力の低さ、安全な飲料水の不足などが、死亡率を引き上げる可能性は十分考えられるのである。


 下手をすれば一都市が全滅するかもしれない。

 

 おれは、手付金としてもらった『金貨』数百枚を換金して、可能な限りの物資を用意することに奔走したのだが…… あとは【神のみぞ知る】である。


 頑張れ!異世界人! というしかない。


 


 だが……なんでこうなった……



 おれの居間の奥にも王室ご一家、宰相殿の家族、騎士団長の婚約者、モロトフ家の当主夫婦、そしていつもの常連であるコッコさん、騎士団長、ミッキーさん、国王陛下と宰相閣下が所狭しと占拠している状態なのだ。



「い、いらっしゃいませ……皆様方……」


 おれはそういって黙って挨拶するしかなかったのである。


 どうなるんだよ、これ……


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