第24話 異世界トイレ事情

 元々おれの店舗というか自宅は、『ぼっと○便所』だったのだが、つい最近下水施設がようやく完成し、ようやく完全水洗トイレへと取り換えることができた。


「やっと…… 洗浄機能付き温熱便座……それも自動開閉機能も疑似洗浄音も……」


 至れり尽くせりの日本が生んだとも言える多機能型洋式トイレ便座である。


 今回のトイレ改装に当たっては、金銭的な余裕があったので一気に色々付けてみたのだ。


 トイレ内の小型テレビ(玄関先を映すモニター付き)やSDカード対応の音楽プレーヤー、もちろんDVDも観れるしラジオも聴ける。


 できればマッサージ機能もと思ったが、まだそこまではどこのメーカーも開発はしていなかったようだ。残念……


 そんなわけで、日本人以外ならばおそらく大抵の初見の外国人が泣いて驚くであろう最新鋭のトイレである。



「うぎゃ~! あひゃひゃはやひゃ~!」


 いつもの異世界営業時間に店舗のはるか奥から聞こえる怪しげな叫び声……


 ふふふ…… こうなることを予想して何も教えぬままトイレを貸してあげたのだよ……国王陛下……



「ふ~…… な、なんじゃ、あの厠は! お湯がでてその……尻のあそこまできれいに洗ってくれるとは…… 欲しい……欲しいぞ、実に……ユキ店長!」


 まあそういってくるとは思いましたよ、国王様……


 だが…… 事はそう簡単にはいかない。


 あのトイレが実現するまでには様々な準備というか、文化レベルの向上が必須条件なのだ。


 トイレの便器そのものがあっても、電気、上下水道などのインフラの整備が必要であり、それがなくてもまあなんとかスタンドアローンでできなくもない……


 個人的にだけ使うにはもったいない。できれば社会一丸となって洗浄水洗トイレが皆使えるようにインフラ整備を頑張っていただきたいのだ。


 そんなこんなを国王陛下と宰相閣下に説明するおれ……


 厠ということばが示すように、この異世界のトイレ事情は『江戸時代』の日本のトイレ事情以下なのだ。

 もっともおれは異世界をこの目でしっかりと見たわけではないので、話を聞いただけの想像でしかないわけではある。


「むう…… そうか…… 難しいか…… いや、王宮だけでも、せめて王家が使うトイレだけでもどうかのお……」


 それだけならさほど難しくはないかもしれない。


 ドワーフの優秀なおっちゃんに機構を説明して、色々と設計してもらえば可能かもしれない。


 そこは王宮が抱える職人との打ち合わせをお願いして、この場のお話は終了。


「ところで……つかぬことを聞きますが……」


「うむ……何でも聞いてくれ、店長」


 おれはふと気になったのだ。用を足した後、どうやってあそこをきれいにしているのかと……



「そりゃあ、外での場合も部屋の場合も貴族以上なら『布』で、一般庶民ならば『葉っぱ』か用意された『藁縄』じゃな」


 えへん! わしの知識もまんざらでは無かろう、と胸を張る国王陛下……バカなんですか、そうですか……バカなんですね……


「葉っぱ……藁縄……ひょっとして乾かして使いまわし……ですか……」


「よくわかったの、正解じゃ」


 は~…… 戦前もしくは戦後の日本の田舎にも同じような藁縄をふき取り様に使っていた歴史は確かに存在する。

 この異世界でも『紙』がほとんど流通していないところを鑑みれば無理からぬ話ではある。

 そもそもトイレだけが立派になっても『トイレットペーパー』が発達していなければ、機構が正常に働くはずもないのである。


 ペーパーレス化(温水洗浄&温風乾燥)は可能とはいえ、今の日本といえども完全ペーパーレスには至っていない。



「藁縄の使いまわしって…… どんだけ不衛生かわかってます?」


「『ふ・え・い・せ・い』とはなんぼのものぞ?」


 そこからか~…… はあ……


 おれの懸念は、衛生観念の欠如が招くであろう最悪の結果は、この数日後に直面することになる。


 王都、謎の疫病事件である。


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