第20話 とある貴族のご令嬢の場合
ユキの店の常連客となってしまった三人の男たちが、ユキから極秘に『バイアグ○』を手に入れた日の明け方のこと……
王都の全く違う三か所で、同じような男の叫びとそれぞれの男と閨をともにする三人以上の女の口から洩れる喘ぎ声が…… いや、それはもう喘ぎ声とは言えなかったであろう。
三組の男女のそれぞれ三様の『猛獣の叫び声』であったらしい。
惜しむべきか……その薬を、三人に渡した張本人がその声を確かめることは、ついぞできなかったのではあるが……
三人の男とは、騎士団団長バルデス、王国宰相エドモンド、それに王国国王エドワード……
バルデスのお相手は婚約者の女性、エドモンドはもちろんその妻、エドワード国王はというと、正妻と側室数人を相手にしての夜の大奮闘である。
三人が三人とも後日、大金を積んで薬を分けて欲しいと、ユキに直談判したことは言うまでもなかろう。
騎士団長などユキに涙を流して感謝の意を示したという。
その場にいたコッコとミッキーには、その理由はわからなかったものの大人の事情を深く詮索するような、無粋な真似をする人たちではなかったことは幸いである。
もっともそんなことを気にするよりも、目の前の食い物に嵌っていたというのが正しいのではあるが……
~とある貴族令嬢の居室にて~
とある貴族の令嬢……とは言ってもすでに三十を過ぎた『出戻り』令嬢様である。
そんな彼女ではあるが、見た目はそれなりにまだ女盛りといえる程度の若さは保っている。
「最近顔の皺とかシミとか気になるのよねえ……」
何気に手鏡を手に取り、自分の顔の肌の様子を確認したのだが……
「え! ほ、本当! な、なにこれ! 消えてる! し、皺も、シミも……ちょっと!だれかいない?」
居室で叫ぶ彼女の元へと侍女が駆け寄る。
侍女もすぐに理解したらしい。
「お、お嬢様! 一体全体どうやって! お顔が…… 若返ってます!」
「こ、これ! これのせい……いえ、これのおかげよ、きっと!」
「そ、それは先日モロトフ商会から献上された試供品……」
「そ、そうなのよ! まだ使い始めてから三日…… こんなに効果がすぐに表れるなんて信じられない」
「お、お嬢さま……お、落ち着いてくださいませ…… すぐにお知り合いの、あの場に同席されていた奥様方にも確認を取ってみますので」
「おおっ! そ、それが良い! すぐに確認を取ってまいれ! もしも……もしもこれのおかげでわらわ達の皺もシミも消えたのなら……」
令嬢とその侍女が『これ』と言っている物は、ユキが在庫処分のために提供した美白を謳っている『スキンクリーム』である。
「急いでたもれ…… これが本当ならば、すぐにでも大量に発注せねば…… 他のご婦人たちよりも先に手に入れるのじゃ、なんとしても! そうじゃ、モロトフ商会がどこから手に入れたかも調べるのじゃ!」
「は、はい、お嬢様!」
この日、モロトフ商会は大忙しとなるのだが、その貴族のご婦人たちからの問い合わせに対応可能な唯一のモロトフ家令嬢ミッキーは、夜更かしがたたって日中はぐっすりと寝ていたらしい。
後からさんざんに商会職員に怒られたのは、ご愛敬である。
パルティア王国の王都では、こうして徐々に色々と大騒ぎが発生しつつあったのだが、騒ぎの張本人のユキは、初めての『時計修理』の依頼をこなすために、せっせと自分の仕事机で専用の片目用拡大レンズを使って細かい作業の真っ最中であった。
大好きな『昭和』のアイドルの歌謡曲とポップスを聞きながら……
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