第18話 騎士団長様のご帰還祝いです
「店主、いや、ユキ殿…… これはいったいなんぞや?」
ここ数日、夜な夜なおれの店に入りびたりの国王陛下である。
先日もお土産で渡した『ブランデー』がたいそう気に入られたようで、ぜひにと注文を頂いた。
本来であれば酒なんぞおれは販売することはできない。酒税法違反で捕まっちまう。
だが、この異世界でなら何でも有だ。多分……
なんてったってア~イドル~! ではないが、なんといってもこの国の国王陛下がおるんですよ。ふふん!
ようやく夜食だけではなく、この店の『商品』にも目が行くようになったようで、物珍しそうなものは、あれこれと質問してくるようになったのだ。
「ああ、それは火をつける道具です。主にたばこを吸う人向けですね」
「たばこ? それに『魔法』を使って火をつけるのではないのか?」
へ? たばこの存在しない世界ですかいな…… それに『魔法』とな!
そんな話は初めて聞いたわ!
「魔法ではなくて…… そうですね……燃える水を補給することで半永久的に使える道具です。ほら、こんなふうに……」
おれの店に置いてあるいわゆる『ライター』は百円ショップなんかで売っているような安物ではない。
むしろ骨董品とも言えるくらいの、高級品として売れていた時代の『売れ残り』……
「おお! すごいな! 店主、これを買いたい、いくらで売ってくれるだろうか?金貨一枚、いや二枚くらいで買えるのならば即金で払うが……」
これまた仕入れ値は数千円だったはずである。金貨一枚なら大儲けである。
どこかで贈答品にでも使うのか、これまた在庫一斉処分が出来た。
まとめ買いありがとうございます。
「これは、はて……なんぞや……」
「ああ、それは、これをこうして……」
スイッチを入れるとモーターの音がする。そうこれは電池式の髭剃りである。
「おお! こんなに簡単に髭剃りができるのか! 毎朝の髭剃りは五人がかりで大仕事なのじゃ」
「まあ、これがあればいつでも一人でできます、よ?」
「これもいただこう! こちらは金貨三枚ほどでよいかの」
取り換え用の電池もたくさん在庫があったので十本つけて金貨三枚。
半ダースのまとめ買いで金貨十八枚である。
いや~……笑いがとまりまへんなあ…… 申し訳ないくらいだわ……
と、まあ最近は夜食が終わると毎度毎度こんな感じで一時間があっという間に過ぎていく。
明日はどんな在庫処分ができるかなっと……
翌日の夜…… ついに騎士団長バルデスさんが帰還した。
王国騎士団長、推定年齢三十代前半。いまだ独身である。
巷では、彼が独身であることは、その性格上なかなか相性のいい女性に巡り合っていないからだと言われているらしい。
ふふふ! だが……おれは知っているのだよ……
彼が、実際にはお付き合いをしている女性がいるにも関わらず、結婚できない理由……
ひょんなことから、その話を本人から聞いて思わず笑いそうになったのだが……
本当に笑ったら、腰の剣ですっぱり斬られそうだったのでやめておいたのだ。
ズバリ! 彼は『イン○』だったのである。
ちょろっと聞いた話では、この異世界では結構いるらしい。特に騎士団とか警備隊の連中とかは、命を懸けた仕事が多いこともあって、ストレス性の『性的不能』者が多いのだとかなんとか……
もちろん彼らは治療方法や有効な薬など知るはずもなく、多くは民間療法的な一種のまじない程度の対症療法しかないらしい。
おれなんかからみたらそういうストレス抱えていればなおさら興奮状態が高まって、女っ気なしなんて考えられないと思うのだが……
戦闘職でもなんでもないおれには、想像もつかないほどの殺伐とした世界なのかもしれない。
そこで、今回の討伐遠征が終わったら無事帰還したお祝いに、騎士団長には『あれ』を渡そうと思っていたのだ。
そう……性的不能者にも効くかもしれない『バイアグ○』……
「バルデスくん……飲み始めてから数十分で効くはず。それから四、五時間は持続するらしい。ただ、間違っても毎日は飲むなよ、それに一回当たり一粒は絶対守ってくれ! そうでないと多分ちぬよ?」
「おおっ! わかった! すまん、ユキ殿! こ、これが本当に効くならば…… やっとおれも結婚できる!」
使用法と効能を説明すると、騎士団長は嬉々としてその夜は帰ったのだが……
翌日以降、またまたその薬の話で大騒ぎになる。
女性陣に説明をごまかすのが大変だったことは言うまでもない。
さらには…… 宰相と国王陛下にも一粒金貨一枚で分けてくれと言われたのには笑って渡すしかなかったさ……
こりゃあ、これもこっそりと大量入手の手段を講じておかないとパニックになるかもなあ……
おれ……薬事法違反かなんかで捕まりたくはないんだが……
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