第17話 国王陛下のおな~り~!
「ユキさん! 店長さん! なんなんすか!なんなんすか!あれは!」
いや、いきなり開店と同時におれの首絞めながら『なんなんすか!』と言われても、困るのはおれなんですけど、ケモミミで眼鏡美人のミッキーさんや……
それに今は深夜ですよ? 近所迷惑……ではないか……
「すぐに百個発注します! できるだけ早くお願いします! でないと貴族の奥方様のサロンで暴動が起きてしまうんです!」
ぼ、暴動ですか……そりゃまた大変なこって……
「な、なんの話なんでしょうか……そ、それに顔が……近すぎやしませんかね、お嬢さん……」
「はっ! す、すいません! わたしとしたことが…… は、恥ずかしい……」
落ち着いて話を聞いてみると、どうやら先日『お試し』にと提供したスキンクリームが大好評だったらしく、すぐにでも欲しいという貴族のお嬢様、奥様方が殺到したらしい。
一個当たり仕入れ値は千五百円くらいで実売価格は三千円くらいだったはずである。
「一個金貨一枚でどうですか!」
ほ! 仕入れ値千五百円で卸価格が金貨一枚(十万円相当)…… こりゃあ、暴利どころの話ではないな……
だが…… おれは遠慮などせん!
どうせこの異世界での末端価格はおそらくその二倍から十倍……
せいぜいみんなで稼がせていただこうじゃないの!
「い、今ある在庫は……二十個くらいしかないので、急いで発注します。百個でいいですか?」
「い~え! ありったけの数、お願いします! とりあえず前金で百個分置いていくのでできるだけ早く!」
「じゃあ、問屋に聞いてみて、少なくとも二百は用意しておきます。その後は様子見ながらということで……」
「わ、わかりました。ですが……すぐに再発注かけることになると思います!」
ミッキー嬢が、ある貴族のサロンでそのスキンクリーム…… コラーゲン入りとかお肌プルプルとかシミが消えて真っ白なお肌が~とか宣伝文句が書かれていたやつである。
聞くところによると、その場ですぐに効果てきめんだったらしい。
この世界ではこういった商品の効果は、地球人よりも大きいのだろうか……
一度、これも検証の余地ありである。
「コホン……」
あ、エドモンドさん…… てか、後ろの御仁は…… 国王陛下……
「ユキさん…… エドワード様をお連れしました」
「あ、はい……申し訳ありません。ばたばたしてしまいました」
「いえ、いいのです。エドワード様も普段通りをご所望ですので」
エドモンドさんの後ろの国王陛下…… どんなはではで衣装でくるかと思いきや、どこぞの大商人のご隠居様かといったむしろ質素ないで立ちである。
「エドワードと申す。よしなに頼む」
「よ、ようこそおいでくださいました。どうぞ奥へ…… 今夜の『夜食』でも食べながらお話しさせていただければ」
「そ、そうだの…… 夜食か……おお、夜食…… 夢にまでみた……夜食じゃの……ほほほっ!」
おいおい、大丈夫か…… どんなに夜食食いたかったんだよ、王様……
今夜のメンバーは、コッコさん、ミッキーさん、エドモンドさん、そしてエドワードさんである。
騎士団長はまだ帰還していない。お勤めご苦労様と言いたい。
帰ってきたら、食いたいものたらふく食わせてやるか……
そして今夜のメニューは…… 『チョコフォンデ』と『チーズフォンデ』である。
日に日にメニューがなかなか豪華になっていくのだが、そこは儲けさせてもらってるからねえ……
最近は重要な商談会の場と化してるんですよ、この一時間……
「……ごくり…… 店長……ってか、ユキさん…… これどうやって食べるんですか?」
皆で囲んだフォンデ用の鍋から登る匂いに我慢ができなくなったらしいコッコさんとミッキーさんである。
もちろん男性陣のお二人も似たようなもんだ。
「ええ、そこにある用意した材料をこうやって串に刺して……」
おれがフォンデの食べ方を教えると、一斉に真似をして食べ始める面々……
「あっつっ! お、おいひい~~!」
「おお、この甘さと苦み…… 何とも言えんが、美味い!」
リンゴやバナナ、角切りしておいたフランスパン等々を串刺しにして、とろりと溶けたチョコの鍋に突っ込んでは口へと次から次へとその手は止まることを知らないようだ。
「こっちのチーズの方もなかなか…… 野菜や肉にもこんな食べ方があったとは……」
「ユキさん、やっぱり料理店を開きませんか? 流行ること間違いないですよ? はっほっ、いくらでも食べれそ~」
心配していた国王陛下とのご対面も、なし崩しになってしまったみたいだがこれで良かったのかもしれないな。
謁見とかいった気取ったやり方はおれの趣味じゃないし…… ご近所さん同士が集まってわいわいっていう雰囲気がお気軽で一番いい。
「そうそう、忘れるとこだったわ。ユキさん、これ『修理』お願いします」
ん? 修理?
「お客さんが間違って水の中に落としたらしくて…… 動かなくなったんで可能んら修理してほしいって頼まれました」
左手で差し出されたのは、この店が販売した『腕時計』である。右手はとどまることなくフォンデへ…… コッコさん、たくましいなあ。
それにしても、ついにこの世界初の『修理』ゲット~! やった~!
おれの本業は『時計の修理』なのである。 むふふ……
「それじゃあ、食べながら例の時計台の話を詰めましょうか」
「そうじゃの……いや、もう少し待て、エドモンド……もっと食べてからにせんか……こりゃあ口も手も止まらんでな……」
いや、おれはちっとも構いませんとも。お土産もしっかり用意してあるんで心ゆくまでご賞味くださいませ。
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