第13話 バルデス騎士団長、遠征す

 今回バルデスをはじめとした王国騎士団は、救援要請のあった辺境の村へと赴いていた。


 救援要請があったとはいえ、討伐対象の魔物は不定である。


 ゴブリン程度かもしれないしオークかもしれない。間違ってもドラゴンとかは勘弁願いたいものだ。


「団長…… そんなおとぎ話じゃあるまいし…… ここ数百年、ドラゴンの目撃情報すらないんでしょ?」


「まあ、そうだな、ドラゴンなんぞ出て来た日にはむしろお祝いせないかんやろ、はははっ……」


 無意識のうちに『フラグ』を立ててしまう騎士団長である。




 数日間の行程を経て、一行は辺境の村へと到着した。

 既に日は落ち、あたりは薄暗い。


 はずだったのだが……遠目にもわかるように村の方からは火の手が上がっていたのである。


「全員第一種戦闘配置! 斥候は村の様子を見て来い! 間違っても戦うんじゃないぞ!」


 無言でうなずく数人の斥候兵が、音もなく姿を消す。


 今回の遠征に派遣されたのは騎士団、合計四十数名である。


 ちなみに四十数名のうち、ユキに剣を研いでもらってあるのは約半数。


「斥候が戻るまでは丘の上にて待機!」


 四十数名の内訳は斥候以外が一小隊あたり九名、計四個小隊編成であり騎士団長は今回中隊長として隊を率いている。


 中隊長付きの副官一名と護衛兵が三名。そして斥候が五名。

 各小隊は前衛二名、中衛三名、後衛四名(小隊長、衛生兵、魔術師含む)構成となっている。


 やがて斥候が順次帰還する。


「村はどうやら山賊の襲撃を受けたようです。正門と裏門に各三名の歩哨がいます。十数名が教会を包囲していますが、それ以外は村長宅と思われる建物の中で……」


「そうか、ご苦労だった」


 村長の家の中で、捕虜として捕まえた村の女を手籠めにしているのだろうとは容易に想像できる話である。

 この世界はそういう世界なのだ。


「よし! 第一小隊は村長宅を急襲し、敵山賊の排除及び村人の救出、第二小隊は教会を包囲している奴らを始末しろ。第三小隊は予備兵として第一小隊、第二小隊の後方支援。斥候隊はすまんが、急いで二手に分かれて正面及び裏門の歩哨を先に片づけてくれ」


「「了解!」」


 万全の態勢で臨み、一気に山賊退治だ……



*****


 その日の深夜のユキの店では、騎士団長を除いたいつものメンバーがそろい、飯なんぞを食っている。


 今夜の飯は、手抜きの蕎麦である。温かい蕎麦に天ぷらやかき揚げ等のトッピングを自由に選んでもらってのお食事会である。


「ソバというのですね、これは…… ほうほう……これは天ぷらと、ふんふん……」


 おれにとっては簡単料理、どうということのない食い物だが、おれ以外にとってはこれでさえも珍味なのだろう。

 おれの食い方を真似しては、ずずずっと不器用に食べている。


「ここんとこ肉が多かったので、これはこれであっさりとしていていいですね。胃が苦しくないので朝は楽そうです」

 

「ところで騎士団長は、またまた討伐遠征なんだって? たいへんだねえ」


 ソバを食いながら他人の命の心配をしても、まるで現実感が乏しいわな……


「なんでも辺境の村からの救援要請があったらしいですが、相手が何者なのかは不明らしいです」


「ご苦労様としかいえませんねえ…… あ、ユキさん! ソバのお替わりお願いします」


 まあ、騎士団長には悪いが、ここにいる面々は荒事はごめんこうむりたい。

 見ただけで戦闘力なさそうだし……


「そうそう、ユキさん。例の時計設置の件、了承されましたのでよろしくお願いします。明日改めて契約書を持ってきますね」


 エドモンドさんはどこかの商人かと思っていたら、なんとこの国の宰相様だったらしい。


 本人は今まで通りで結構です、なんて言ってるからおれも態度を改める気ナッシングである。


「わたしにもお替わりお願いします! 今度はお揚げで食べようかな~」


「わたしもお願いします~ わたしはかき揚げと卵で」


 おまいら普段まともに食ってるのか?

 これは食事と言えば食事だが、あくまでも軽めの『夜食』なんだぜ? って言っても今更だけどな……

 

「もう一つありました! 近々に今回の時計設置の依頼主がここへお邪魔したいと申しておりました。いいですかね、ユキさん」


 は? え? それって……ひょっとして国王さんがここへお忍びで来るってこと?


「ええ、まあそういうことなんでよろしく! ああ、普通に接してくれればいいとおっしゃってました」


 よろしくじゃねえよ! なんだよ、普通って!


 こんなボロ屋に国王陛下様ですか! ひえ~!


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