第11話 王都、時計台設置事業開始!
そして、またまた今夜の異世界営業時間がやってきたのだ。
もちろん常連となってしまった三人に、今夜はエドモンドさんもである。
「最近食べ物が良いせいか、同僚の皆さんに『お肌がきれいになりましたね』といわれるのよ~」
「あ~ コッコさんもですか~ わたしもなんです~」
コッコさんとミッキーさんの女性陣だけではない。
「わたしも言われたぞ?…… 団長、顔色も肌もつやつやしてるし、元気いっぱいですねとかなんとか、がははは!」
夜食ってあんまりいいもんじゃないと思うし、みんな夜更かし好きみたいだから、お肌が荒れるっていう方が自然な気がするけどねえ……
「ああ、そうそう、試しにこれ使ってみてください」
おれが皆の前に差し出したのは『六種の効果!美肌のためのお手入れはこれだけでできる!』っていううたい文句に釣られて仕入れた『スキンクリーム(コラーゲン他含有)』である。
嘘かほんとか確かめないまま、問屋から届けてもらった死蔵在庫品だ。
使用期限は大丈夫のはずだ、多分……
「ほほ~! 今夜帰ってから早速使ってみますかね……」
「お代は使ってみて良かったらで結構ですので……」
実は大量在庫を抱えておるんさね、これ…… さっさとさばいて現金化したいんだわ……
お気軽な気持ちで『試供品』として提供したわけだが、後々これが大騒動の素になるなんて想像していなかったよ……
「ところで今夜の夜食は…… 『しゃぶしゃぶ』というのですか……こりゃまた昨日とは違いあっさりとした味わいですなあ(また陛下に怒られるわ……内緒にしておこう)」
一番の新参者であるエドモンドさんは、商談に来たはずなのだが…… いつの間にかもう馴染んでせっせと肉を口に運んでいる。
「ええ、正確には『豚しゃぶ』ですかね。肉は豚ですよ」
「おお、豚ですか~ これはなかなかのもんです。こういう食べ方があったとは驚きです」
「それにこのタレは『ポン酢』というのですね…… 昨日の甘しょっぱい味とは違ってさっぱりしてて、これもおいひいでふ~」
もはや遠慮などしない連中である。
が、おれは善意でただ飯食わせているわけではない。
コッコさんは来る毎に『時計』を何かしら購入してくれている。主に置時計なのだが、まれに腕時計を大人買いしてくれている。
騎士団長のバルデスさんは、主に剣の研ぎの仕事を大量に持ってきてくれていてこれがまた売り上げというか、利益に何気に貢献してくれているのだ。
そりゃあそうだわな……元手いらずの研ぎの仕事に一本当たり金貨一枚(十万円相当)……
粗利ほぼ百%とかあり得んわ……
そしてミッキーさんは主に既製品主体ではあるが、近視用の眼鏡を委託販売してくれている。
今の時代百円ショップで売っているような眼鏡が一個当たり銀貨一枚(一万円相当)である。利益率九十九パーセント……
やめられまへんなあ! ウハウハでんがな……
お貴族様には特注で眼鏡を、というかレンズの在庫が大量に余っているのでそちらを買っていただいている。
その値段金貨二枚らしい。おれからの卸値は金貨一枚……
近々店舗の拡張も視野にいれているらしいと聞いた。
皆WIN-WINの関係なのだ。
だから夜食も自然とけちらない物を提供できているのだ。
利益率がハンパないのだよ……
そして今回のエドモンドさんの話……おれは受けることにした。
どうやって『時間』という概念を一般庶民に浸透させていくか……
一 王都を手始めとして、一番目立つ建物に大きな時計を設置し、朝六時昼十二時夕方六時に合わせて鐘を鳴らして時間というものに慣れた生活を推進する
一 王宮、貴族をはじめとして『置時計』『柱時計』『腕時計』を流布していく
一 会議等のスケジュールの時間共有を『時計』を通して浸透させていく
という大まかな案を作成しエドモンドさんには了承してもらった。
おれがやるべきことは
一 王都の各所に設置する(約五メートルの大きさの)機械式時計の発注
一 設置作業とメンテナンスに関する指導全般
一 その他の時計の商品供給と販売専属契約
の三つである。
問題はここを離れて異世界で作業が可能かどうかという点である。
最悪、おれは何も持たずに異世界に置き去りにされる可能性があるのだ。
その辺は おれの覚悟次第なのだが、一度検証が必要とは思っている。
「ユキ殿……頼みがあるのだが……」
思考の深みに嵌っていると、騎士団長バルデス君から何やらお願いがあるらすい……
「ん? 何でしょうか、騎士団長殿」
「ああ、防具の改良は頼めないか? ユキ殿……」
騎士団長の頼みとは、剣だけではなく防具の強度アップをお願いしたいということらしい。
「ああ、多分出来ますよ? バルデスさん」
「ほ、本当か!」
ふふふ…… 趣味多彩なおれを見くびってもらっちゃあ困るってもんですよ……
さあ、またまた在庫整理させていただきましょうかねえ……
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