第9話 四人目の来客
「う、うめえ! うめえなんてもんじゃねえな、これ! ユキ殿! 」
「う、美味すぎて涙が……」
「わたしの眼鏡が曇りますけど…… はふ~ この世のものとは思えないくらい美味しいです~」
四人で店先で何を食っているかというと、『すき焼き』である。
夜食にしては、たいそう濃いものなのだが、まあいいだろう。
騎士団団長のバルデス。
どこで働いているかは知らないが、仕事帰りのコッコさん。
ご近所の商人の娘のミッキーさん。
毎晩毎晩おれのところで一時間ほどの会食が日課となっている。
いやさ、一応商売やってて営業中なんだけどね……って、どうせ来客など期待していない。
なので四人で美味しく食事を…… の真っ最中なのだ。
「こんなに柔らかい肉……食べたことない……」
「この甘さとしょっぱい感じが絶妙です~ それにこの生卵が…… 最初は気持ち悪かったですけど……」
「これは止まりませんなあ……」
三人ともいつの間にか見よう見まねで箸をそれなりに使えている。器用なもんだなと一応感心しておく。
すき焼きをフォークで食うなんて邪道だよ、うん。
「それにこのビールとかいう酒もいいな、ユキ殿! 冬だというのに冷えた酒が美味いとは…… 今までの人生を返せと言いたいくらいだ、がはははっ!」
「わたしはこっちの冷酒?とかの方がいいかな……とってもこの料理にあってますね。この間いただいたお酒よりはるかに美味しいです」
そりゃあまあ、あれはただの料理酒でこっちは高級なやつですから……ははは…… 内緒にしておこう。
(どんどん!)
ん? あれ? お客さんかな?
「ごめんください!」
はいはい、今行きますよっと……
ん? いない……
玄関の扉を開けたはいいが、誰もいない…… と思ったら……
「ばんわ~ こちらはユキさんの『トケイシュウリテン』でよろしかったですか?」
おおっ! 視線を下げた先には……ドワーフ! きっとドワーフだわ、これってば!
「い、いらっさいませ…… どうぞ中へ……」
声が裏返っちまったぜ…… 騎士様にエルフに猫娘に、次はドワーフ! 定番と言えば定番だな。
「お邪魔します~…… あれ? 騎士団長に、おう(王女様)……むぐっ!」
すき焼きほおばりながら、新たな来客を睨み付けるコッコさんである。
ここも知らん顔が無難だな……
「おお、食事中でしたか……いやはや、これは失礼しました」
「いえいえ、どうぞよろしければご一緒にいかがですか?」
「これは、ありがたい! 寒空ですっかり身体が冷えておりましたのでな……助かります」
しばし、すき焼きを黙々と食べる五人である。
それぞれのグラスには冷えたビールか、冷酒が途切れることなくつがれては飲み、すっかり出来上がってしまったようなのだが……
「申し訳ない、すっかりごちそうになりました。おかげさまで身体も温まりました。今夜はこれで失礼いたします。そろそろ営業時間がお終いでしょう?」
あと数分で異世界での営業時間は終了だ。
ふむ…… この人の名前はエドモンド。
正式な依頼があっておれの店を訪れたらしいのだが……
「今夜は時間がなさそうなので、こちらの手紙をご覧いただければ…… わたしの主人より預かってきましたので、明日にでもご返事いただければありがたいのですが……」
「わかりました…… 内容を吟味してお返事いたします。明日またお会いしましょう」
というわけで今夜もお開きの時間である。
不思議とこの異世界人の人たちは、営業時間終了の深夜一時にはきっちりと帰っていくのだ。なんでだろう?
まあ、いいや……とお客たちが立ち去ったあとの後かたずけを始めるおれの懐の手紙には、しっかりと王家の紋章が描かれていたことには、この時点ではまったく気づかなかったおれ様であった。
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