第7話 眼鏡っ娘誕生
「すいません…… ご迷惑をおかけして……」
ケモミミ娘の名前は『ミッキー』さんというらしい。
ケモミミで女性でミッキーという名もどうかと思うが、それは地球に住んでる側の偏見というものだろうか……
「いえいえ、お気になさらずに…… で? どうされたのです?こんな時間に……」
「あ、はい…… 近所の友達のところにお邪魔していたんですがすっかり遅くなってしまって……わたし、遠くのものが良く見えないのに、こんなに暗くなってるとほとんど何も……」
「暗がりを歩いていたら店の扉にぶつかってこけていたと……」
「ええ、まあ そういうことで……ん? くんくん…… 何かいい匂いがしますけど…… とっても甘そうな匂いが……」
「もぐもぐ…… おいひい~ これ! ユキさん! これ美味すぎ! 超美味い!」
「あ、あの…… できればわたしにも……分けていただけると……お腹が空いて……」
「ああ、どうぞ。食べてみて、たくさんあるから……」
微妙にじと目で訴えてくるコッコさんの視線が気になるけど……放っておこう……
「うみゃい! うみゃいです! これはいくらでもお腹に入りそうですにゃ!」
おおっ! 猫族語かいな…… にゃって初めて聞いた。
ケーキはともかく、ちょいと営業だな。
「コホン……食べながらでいいんで、聞いてもらえますか、ミッキーさん」
「ううっ! うん……ごほごほっ!」
そんなに急いで食べなくても…… いや 無くなるか相手がコッコさんならば……
「えっと……ミッキーさんの遠くが見えないのって昔から?」
「うぐっ! いえここ最近急激に…… な、なくなる~ ケーキ……」
「ああ じゃあ、それは眼鏡をかければ改善されると思いますよ?」
「え? そうにゃんですか? ほうほう」
いや、聞いちゃいねえだろ、ミッキーさん。ケーキの方ばかり見てるし……プッ
尻尾が左右上下にゆらゆらと揺れているんだが……触ってもいいかな? いいかな?多分ダメだよね…… でも今ならどさくさに紛れて……
いや、セクハラで訴えられてパルティア王国で死刑とかになったら困るし……
「これ、掛けてみてください。ミッキーさん」
適当に強めの度数のレンズを嵌めた測定用の眼鏡を差し出してみる。
「ん? これをどうすればいいの?」
ああ、そうか……眼鏡も初めてだからつけ方はわからんわな……
「こうやって耳に……」
「お、おおっ! 見える! 見えるよ! ユキさん、なかなかいい男だったんだね! コッコさんはエルフ! ん?どこかで見たことが……」
またまたこっそりと口に人差し指をあてて『黙ってて』と合図を送るコッコさん……
まあいいか……知らんぷり、知らんぷり……
「あ、え、あ、そ、そうね…… 人違いだね」
「もしよかったら視力検査をして正式に眼鏡作りましょうか?ミッキーさん」
「ほんと! これでわたしも良く見えるようになる?」
「ええ、大丈夫だと思うよ」
店内の視力測定用の蛍光灯付きボードで、左右の視力をきっちり計ってやったさ。
ただ近視はいいけど、乱視とかはどうにもならんのでそこまではやらん。
「明日のこの時間までに作っておくから、また同じ時間に来れる? ミッキーさん」
「うん、大丈夫……だと思う。今度はお父さんに連れてきてもらうから」
お父さん? お父さんもケモミミのしっぽ有りだよね? ふふふ……こりゃ楽しみだ。
「でも…… 高いんじゃないの?これ……」
「ミッキーさん、これ宣伝してくれるんならモニターとしてただでいいよ」
「も、もにたー? ただ? え! ほんとにいいの?」
「うん。だから同じように困っている人がいたら紹介してくれれば、ぼくとしてはありがたいかな」
「わかった~! 結構いるんだよね。わたしみたいなにょ……」
ふふふ……これで眼鏡の客もゲットだぜ! ついでに在庫整理も捗る。
商売繁盛! ええことでんがな!
なんだかんだで、あっという間にケーキを平らげた二人……さらにはおれ個人用の、冷蔵庫に保管してあったケーキもお土産に持って行かれたために、おれ自身は一口も食えなかったことは真に残念だった。
だってさあ…… もうないのかにゃ、とかって見つめられたら、ねえ……猫耳さんです、お尻尾さまですよ?
「じゃあ、また明日もよろしく~」「よろしくお願いしますなのにゃ」
夜中の一時ちょっと前…… 二人は暗闇の中に消えていってしまった。
ちなみにミッキーさんには、既製品の貸し出し用の眼鏡をレンタルしてあげた。これでちゃんと家まで帰れるだろう。
さあ今夜も、ようやく寝る時間だ。
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