第6話 商売繁盛の兆しかな…… そして三人目の来客
「いや~ 今日は店じまいしてもいいかなあ」
いやね、昨晩コッコさんがお店に来てくれてんですけど、大人買いしていってくれたわけですよ。
柱時計に置時計、それに腕時計の紳士もの、婦人もの合わせて一ダース分ほど。
そもそもおれの店の品物は時計関係はそう多くはない。
これほど売れたのはここ数年じゃあ快挙っていうもんさ。
貨幣はどうしたかって? もちろんあっちの世界のお金で払ってもらったんだけど、金貨ですよ金貨!
この金貨を単なる『ゴールド』として売っぱらっても何倍もの売り上げになるんさねえ。
こっちで売ればせいぜい数千円の時計を、少なくとも金貨一枚(貨幣価値で約十万円相当)でお買い上げですよ?
それが一ダースで約金貨二十枚(約二百万円相当)!
ウハウハですがな!
聞くところによれば、時計そのものがないという。正確な時間を計りようがなかったのだが、これで少なくとも仕事場では時間感覚の統一ができるため、無駄を削ることができるらしい。
コッコさんがどんな仕事についているのかはこの際おれには関係ない。
現代日本ではすでにレトロな機械式時計が役に立ってもらえれば、これほどうれしいことはない。
いずれは修理に足を運んでもらえれば、またまたウハウハである。
それともう一つ…… 騎士団長の剣を研いでからやたら剣の研ぎの仕事が増えてしまった。
団員の分も頼むと言って数十本を置いていかれた時は、げんなりしてしまったが、一本に付これまた金貨一枚ということだったので請け負うことにした。
ただし時間はかかるよとは伝えておいたけどね。
パルティア王国内の有名な研ぎ師に依頼すると、時間はかかる上に値段も一本金貨数枚は取られるらしい。
ぼったくりじゃね? とは思ったが文化の進み具合を勘案するとそんなものなのかもと無理やり納得しておく。
~王宮内 国王の寝室にて~
「陛下、お目覚めの時間でございます」
「ん? ああ 、もうこんな時間か……」
陛下と呼ばれたのはもちろん、パルティア王国国王その人であり、声をかけたのは正妻、つまり王妃殿下である。
「時間がわかるようになって便利になったが…… 朝寝坊がしづらくなったの、王妃よ……」
「ええ、左様でございますわ、陛下。それでも、しっかりとその日のスケジュールを正確にこなせるようになったと、宰相をはじめ官僚の皆さんには評判のようですわ」
「うむ…… 王女には良いものを見つけて来てもらったわ。ほれ、これはいいものだのお」
国王が王妃に自慢気に見せたものは、自らの左手首に巻かれた腕時計。
王女が陛下へとプレゼントした、ユキの店にあった最高級品である。
「娘からこのようなものをもらえるとはの……いくつになってもうれしいものよ……」
「ほほほ……まったくですわ……」
笑って答える王妃の左手首にも、装飾された金色に輝くブレスレットタイプの腕時計が巻かれている。
「お前のそれも大そう似合うておるぞ」
「ありがとうございます、陛下……」
「む、まだ朝食の時間には間があるの…… ふふふ……」
「あ、あれ~ 陛下…… 朝から元気が……よろしいようで……う、うれしいですわ!」
「苦しゅうない……時間までとくと楽しもうぞ! むふふ……」
再びベッドにもぐりこむ夫婦がやることっていったら……決まってるでげしょ?
タイムスケジュールに余裕があれば、このようなこともできる…… 王女と『時計』に密かに感謝する国王夫妻であった。
*****
珍しも今夜は雪が降っていない。ならばコッコさんは、店にはやってこないかなと思ったらそんなことはなかった。
「こんばんわ~、ユキさん。お邪魔しま~す」
深夜零時の定期便(上客)と化しつつあるコッコさんのご来店である。
今夜は、パルティア王国では特別な日でもなんでもないのだが、少なくとも日本列島では年に一度のお祭りの日、クリスマスイブである。
となれば、今夜の夜食は『クリスマスケーキ』なのだ。
ここ最近の懐具合のいいおれは、奮発しましたよ! 特注の五十センチ特大二段重ねのデコレーションケーキ~!
もちろん飲み物はシャンパンである。
「こ、これは! 一体何事ですか、ユキさん! お祝い事?」
今にも涎を垂らさんばかりに、ケーキを見つめるコッコさん。見たことはなくとも食べ物であることは本能でわかっているようだ。それも特上の旨さであることも……
「年に一度のお祭りの日みたいなもんです。さあさ、いただきましょう! バルデスさんは残念ながら今日は夜勤当番だそうで……」
「あらあら……かわいそうに……こんなご馳走逃すなんて……わたくしが代わりにたっぷりと賞味して差し上げましょう。うふふっ!」
ケーキに刺したろうそくの火も消して、ケーキも切り分け、さあいただきま~す!
といったところで、玄関の扉から大きな音が……
(ど~ん!!!)
「ん? どうしたんでしょうか……大きな音が……」
「痛った~い!」
誰かの叫びが聞こえる……
「ちょっと見てきます。コッコさんはそのままケーキを食べててください」
「は~い!」
どんな時でも食欲旺盛なコッコさんである。
店の玄関に出ると一人の女性が倒れていた。
「え? ケモミミ? え~! 」
そうなのだ……おれの目の前の倒れている女性はケモミミ娘だったのだ。
きた~! ケモミミ娘!
エルフのお次はモフモフ娘!
生きてて良かった~と思う、今日この頃の四十目前男であった。
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