第5話 パルティア王国王城での噂と……
ユキの時計修理店が異世界とつながってから数日後の話である。
~パルティア王国王宮にて~
「ねえねえ、ここ最近第一王女のココテリア様の噂…… 本当かしら?」
「あ、聞いた聞いた! 夜な夜な城の外へ出かけては男と会ってるんじゃないかって」
「え、わたしは男じゃなくていい店を見つけて、美味しいものを食べてるらしいって聞いたよ?」
「ううん、わたしはそうじゃなくて、王女様が夜出かけて人の生き血を吸ってるとか聞いた……」
「え~! いくらなんでもそれはないでしょう? そんな事件が起こったなんて話聞いてないっしょ?」
「そうだよねえ……」
「でもさあ、毎晩王女様がほろ酔い加減でいるってのはホントらしいよ? 最も近いお側付きの人に聞いたんだけどね」
「毎晩どこへいらっしゃってるのでしょうか、王女様は……」
「どこで手に入れたのかはわからないけれど、とても美味しいお酒を手に入れられたとかなんとか……」
「う~ん…… 嘘とも思わないけれど確実な証拠がないんじゃあねえ……」
「それと……」
「うん?」
「王女様の枕元に見慣れぬものがあるらしいわよ」
「どんなもの?」
「王女様って朝は弱かったでしょ?」
「うんうん、朝寝坊は毎度のことだったけど……」
「それがね、ここ最近しっかり同じ時間に起きられるようになったらしいの」
「それとその枕もとのものとどんな関係が?」
「その枕もとのものが、毎朝同じ時間にお知らせしてくれるらしいのよ」
「え~!なにそれ! 超便利じゃん! わたしも欲しい! だって毎朝上長に遅刻で怒られるのいい加減やだし……」
目覚まし時計…… 時刻のおおまかな概念はあっても細かく刻まれた時間の習慣等のないパルティア王国には、もちろん今まで存在しなかった物である。
「それとさあ……最近王女様の肌がつやつやしているらしいのよ…… 」
「それって夜な夜なのお忍びに関係あるの?」
「だって、普通は夜の外出や寝不足なんてお肌の大敵でしょ?」
「それが逆にっていうのは怪しいわね…… きっと何か秘密があるんだわ……」
「皆で情報交換はしましょう。わたくしたちもおこぼれにあずかれるように!」
「さんせ~い!」
王宮勤めをする、とある侍女たちのある日の会話である。
~パルティア王国騎士団、遠征先にて~
本来は研ぎの仕事など専門職でないユキが研いだロングソードを、実戦で使っている王国騎士団団長……
「うお~! 何だ、これは! 斬れる、斬れるぞ! 斬れすぎる!」
パルティア王国騎士団団長をはじめとした騎士団員約三十名は、とある村の郊外にて発見されたゴブリンの巣にてゴブリンの討伐依頼をこなしていた。
ゴブリンの巣が思ったよりも大規模であったため、偵察後撤退を決めた騎士団ではあったが、一人の団員のミスによりゴブリン百体からなる大集団に取り囲まれてしまったのだ。
ロングソードというのは、いわゆる直刀である。斬るというよりも叩き斬るというほうが正しい武器である。
日本刀のように切るのではなく、鋭利な鈍器といった感じなので、多少の血糊がついたところで武器としての性能は、日本刀ほどには劣化しないとされている。
が、それでもゴブリンを数体叩き斬っていれば切れ味は落ちてくる。
ところがだ……
「今日の団長……どうしたんだ…… いや、団長が、というより団長の剣がというべきか」
「すごすぎるぞ! あそこまでゴブリンといえどもなで斬りにしている剣をおれは知らない」
とにかく何体斬ろうとも団長の振るう剣は、ゴブリンを次から次へと真っ二つに切り裂いていたのだ。
普通ならばとっくに鈍器のような使い方をしているはずが、その切れ味が衰える様子がない。
これはすでにロングソードの概念を変えてしまうほどのすさまじき光景であった。
あまりにも切れ味がいいため、斬った際の抵抗がなくいくら斬っても疲れ方がいつもの何倍も少ない。
「ユキ殿! 感謝するぞ~」
ゴブリンを滅多切りにしながら大声で叫んでいる団長…… その叫びの中に出てくる『ユキ』という人物の名前…… 団員が誤解してしまうのも無理はない。
「『ユキ』って……まさか……これか?」
ある団員がおのれの小指を立てて隣の団員に問う。
「まさか……あの団長に女ができたと……いうのか?…… おお、神よ……感謝します」
「そうだろうよ……でなきゃ名前を叫んであの切れ味…… 女が出来たからだろ、あのパワー……」
齢三十ちょい……未だに結婚できないどころか、女の匂いの薄い団長である。
(実は婚約者がいるのだが、事情があってまだ結婚まで踏み切れないというのが真実ではあったのだが……)
『ユキ』という名の、団長の『想い人』を探せ!
この日団長以外の団員に下った特命…… 団員たちがその真実を知るのはもう少し後の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます