第4話 王国騎士団団長は『熱燗』がお気に入りのようです

「うみゃい…… いや、美味い! 寒い夜にはこの酒はほんとにいいですなあ」


 聞けば、このパルティア王国の騎士団長様なのだそうだ。声が裏返ってるけど。

 名前はバルデス。


 とある討伐遠征に行って帰ってきたはいいが、すでに真夜中。いつもの馴染みの研ぎ職人が不在であったため己の武器であるロングソードの手入れができずに困っていたらしい。


 簡単な手入れならもちろん手前でできるとのことだが、刃こぼれしているためそれは不可能だったらしい。


 そんな王国騎士団団長の剣を、おれごときに研がせるのもどうかと思うが……


「頼む、いやお頼み申す…… 明日も研ぎ職人は不在らしいのだが、わたしは明後日の明け方には再び遠征せねばならないのです。ですから同じ職人であるユキ殿にお願いしたい!」


 いや、おれ研ぐのはできるけど……時計修理職人なんだけど……


「同じ職人ならば、きっと出来ます!」


 どういう感覚の世界なのかよくわからんな…… 研ぎ職人も他も一山十円かいな……


「まあ、やってみますけど……出来上がりがまずくても文句言いっこなしですよ?」


「それは構わない。緊急を要するのです。とりあえず使い物にさえなれば、後日改めて研ぎ職人に依頼しますので!」


 おれは知らんぞ……どうなっても……あとでクレーム出されても困る。


「では明日の同じ時間においでください。それまでに終わらせておきますので」


「た、助かった……よろしくお願いいたします!」


 まあ、一日あればなんとかなるだろ……趣味で揃えた砥石も色々あるし…… もっともそれをそろえて使ってたのは親父だったんだけどね……


「ユキさんは、なんでもお出来になるんですねえ……」


 そういっておれを褒めてるコッコさんは、鍋に夢中……


 修理依頼の話が終わったバルデスさんも 鍋とポン酒に夢中……


「この国でこんなに新鮮な魚が食えるとは……バルデス感激しております!」


「ユキさん、職人なんかやめてここで料理人でも始めればいいのに……フウフウ」


「ハフ、ホフ! そうそう! 繁盛間違いなし、あっつっ!」


 忙しい連中だなあ、もっと落ち着いて食べなよ……



「う~ん…… このお酒も飲んだことがないですねえ。この鍋にこんなにも合うお酒……」


「このタラとかいう魚、淡泊だけどうまいですなあ、ユキ殿」


「ユキさん、このお酒少し分けてもらえないかしら…… 」


「わ、わたしもお願いいたします! ぜひ!」


「ああ、ちょっと安いやつですけど、それでいいなら……」


「ほ、本当ですか! ありがたい! これで次の遠征の楽しみができ申した」


「わたしも、お城……コホン……家族皆で飲めるわ~」



 いや、安酒ってえのは『料理酒』でんがな…… 一リットル数百円の紙パックのやつさ。

 それでも異世界人にはいい酒かもしれんが……



 二人に紙パックの大きなボトルをひとつづつ渡す。


「これならば! 当分楽しめますな! がははははっ!」


 後日判明したところ、騎士団長は部下たちに見つかり、あっという間に飲まれてしまったと、泣きを入れてくるはめになるのであった。


 ほどよく酔いが回って深夜一時までもう少しというところ……


「ではそろそろ、お暇いたしまする。研ぎの件よろしくお頼み申します」


「あら~もうこんな時間……わたしも帰ります。けふっ またね、ユキさん」


 腹も膨れ、ほろ酔いかげんの二人は、夜の闇の中へと姿を消した。大丈夫かねえ……


 夜中の一時の合図の音があちこちの柱時計から鳴ると、外の風景はまた元の商店街へと変わるのであった。


 とりあえず寝るかあ。


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