第3話 異世界開通二日目……新たな客
翌日の夜、いや日中も頻繁に外の風景に変化はないかをチェックしていたおれである。
そんなんで仕事が進むはずもないのだが、今はそれどころじゃないのだ。
何がきっかけで異世界転移したのか、はたまたそれは時間限定なのか、偶然の一回だけだったのかを検証したいのだ。
それがわかれば、おれのこの寂しい人生もバラ色人生に変えることができるかもしれない。
最低でもコッコさんにはもう一度会いたい。惚れたというところまではいかないだろうが、想像していた以上の美形エルフの女性との出会いは大切にしたい。
もし、もう一度この店を訪れてくれるのなら、今度はましなものを食べさせてやりたくはある。
お茶漬けが最高の食べ物だなんて思われたら、現代美食国家『日本』の名折れってもんでしょうよ。
とはいえおれは料理人でもなんでもないので、せいぜいが男の手料理が少々できる程度。
次回というチャンスがあるならば、きっと仕事帰りに寒い寒いといってまた来てくれることだろう。
だから今夜は、簡単な『鍋料理』を夜食として用意しておくことにした。
結局、日中そわそわと外の様子を何度も伺ってはいたのだが、望んでいたとおりの変化はなく、隣近所のおばちゃんたちが、おれの様子を見に来てくれただけで、やがて深夜を迎えることになった。
時刻は深夜零時。昨夜コッコさんがやってきた時間である。
この時間まで外の様子は変化していない。なので日中は少なくともどちらが転移しているにせよ、大丈夫らしい。
店の柱時計が十二時を告げると……
「おお! 街並みが……変わった!」
そして玄関先に立っていたおれの目の前に、突然現れる人影……
「こ、こんにちわ! ユキさん」
「お、おう、こんちわ、コッコさん」
よかった~! また会えたよ、コッコさん……
「お店が閉まっていたんで焦りました~ でも良かったです。帰り道助かります」
こんな深夜に一人の女性が帰り道大丈夫なのかって話だが……
見れば、通りにはコッコさん以外に人影はない。
「寒かったでしょ?どうぞどうぞ」
「あ、ありがとうございます! あったか~い!」
部屋の温度はあらかじめ上げてあるので快適だ。
「今日はコッコさんのために鍋を用意しておきましたよ」
「な、なべですか? それは一体どういう食べ物なのでしょうか……いえ、なべって……なべですよね?」
早くもお腹をならすコッコさんである。なべと聞いて食い物を想像するとは……なかなか鋭い!
本日の鍋は、白菜とタラ、それにきのこ類をいれた塩と昆布味のあっさり鍋である。
「はふ~! うまいです~ これはお魚ですか! 魚はこの辺じゃ食べられない高級品なんですよ!」
ほうほう…… ということはこの辺りは内陸ってことかな?
「魚はこの辺では川魚なんですが、あまりうまくはないので食べる人はほとんどいなくて、海の魚はまず手に入りません」
聞けばパルティア王国は、海に面した土地がないそうで、魚介類は食生活とは無縁らしい。
「シンプルな味付けがなんともいえないですねえ…… いくらでも食べれそうです~」
「たくさんあるからじゃんじゃん食べてね」
「はい~! 遠慮なく!」
美人さんと一緒に食べる鍋は最高! それもエルフさんですよ? ふふふ……
「た、たのも~!」
ん? 玄関から声がする。
「だれかおらぬか! 是非ともお願いしたいことが!」
お客さんかいな…… こんな夜遅く……
「はいはい、今行きます! コッコさんはそのまま食べてていいよ」
「は~い!」
とんとんと叩かれる玄関の戸を開けると、そこには雪を積もらせた甲冑姿の大男が立ってましたわ。
その姿は、おれの頭の中にある西洋の騎士様といったそのままの恰好……
「夜分、恐れ入る! 火急の用にて参った次第です」
「おひとりですか? 寒いでしょう、ひとまず中へどうぞ」
「かたじけない。いや~助かりました。どこの店も開いてなくて……」
こんな真夜中に開いてる店はないでしょうよ…… 日本の歓楽街ならいざ知らず……
「お! 食事中でございましたか……これは失礼しました……」
「いえいえ……よろしかったら一緒にどうですか? 食事は大勢で食べたほうがおいしいですし」
「申し訳ない……昨日の昼から何も食べていなくて…… お? あなた様は……」
騎士らしきその男性は、すでに鍋をつついているコッコさんの顔をみると驚いた表情を見せる。
コッコさんは口に手を当て、黙っていろと密かに合図を送る。
その辺は大人な男なので、華麗にスルーを決める。
「お知り合いでしたか…… ちょうど良かった。ささ、一緒に食べましょう。寒いので少しお酒もだしましょうかね……」
「おお、それはありがたい! 店主、本当に申し訳ない」
パルティア王国騎士団団長、バルデスとの出会いの夜でした。
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