第39話 東京へ


黒々とした原生林を切り裂くように鉄道のレールが真っすぐに延びている。


満月の光で銀色に浮かび上がるレールに沿って、オレ様は走る。

猛然と走る白黒の毛玉。

上空から見るとそんな感じに見えるだろう。


空から小太郎がついてきていた。

小太郎の背にはハナが乗っているはずだ。


オレ様は上空からもはっきりわかる大トカゲ走法で走る。

上半身を左右に大きくひねりながら、下半身を強引に引っ張って走り進んでいる。

ギュッギュッという力強い筋肉音を響かせながら。

前だけを見すえて、ガッシガッシ、ギュッギュッと原野を走り進む。


分岐点で迷うと、小太郎が旅ガラスに聞いて方向を確認した。



東京に着いた。

オレ様は徳さんに会いにきたのだ。

でも、この広い東京で、どうやって徳さんを捜すのか。


ハナが活躍してくれた。

最も効率的で確実なのは、ドブネズミの情報網を活用することだとハナは言う。

東京の地下には、数百万匹というドブネズミが生息していて、日常の情報を常にやり取りしているらしい。


〈旨くて栄養のある水を得ることができる地下水脈のありか〉とか、〈美味で安全な食料を、安心して得られる食堂、もしくはゴミ捨て場〉、〈外敵から身を守ることができて、防犯上のすべてを満たした住まい〉などのサバイバル情報が頻繁に行き交っているとハナが教えてくれた。


ハナは大都会のネズミネットワークにアクセスした。

つまりハナがしたことは、〈徳さんの姓〉と、〈相場師〉、〈最近、食べ物関係の生ゴミに変化〉のあった〈大邸宅〉というキーワードをネットワークに流し、反応を待ったのだ。


すぐにレスポンスがあった。


その屋敷の周辺を流して歩いているフリーランスのネズミ(=家付きではないネズミ)がいて、オレ様たちを案内してくれた。

彼が言うには、


「とにかくでっかい屋敷だけど、ふだんからほとんど食い物のゴミは出ないんだ。屋敷には主人とお手伝いさんがいるだけでね。その主人もほとんど留守がちで。だから、家付きのネズミもいないよ。生活反応の低い家はネズミにとって暮らしにくいからね。ところが最近、ゴミに食い物が頻繁に出されるようになった。家族が増えたんだな。こどもだね、あのメニューは。しかも、病気じゃないかな、ほとんど手つかずのまま捨ててるから」



屋敷はしんと静まり返っている。

人の気配がしない。


「こんなに部屋数があってどうするんだろう」


とハナが心配するほど大きな屋敷だった。

徳さんの部屋は二階にあった。

オレ様とハナは、足音を忍ばせて徳さんの部屋に入った。


あのネズミが言ったように、徳さんは病気だった。

ベッドで寝ていて、げっそりやせていた。

枕元には病院の薬袋と水差しが置いてあったが、飲まれた様子はない。

薬袋の折り目がきちんとしていて、しわひとつなく真新しいままだから。

お盆に食事が用意されていたが、やはりまったく手をつけていない。


外で小太郎が鳴いた。


「なんだろう?」


と、ハナが窓からのぞいてみると、立派な車が門から入ってくるのが見えた。

程なく、階段を人が上がってくる気配がした。

徳さんが寝返りを打ってドアに背を向けた。

寝てはいなかったようだ。

オレ様は水差しの横に座って、ぬいぐるみのふりをした。

ドアを開けておとうさんが入ってきたとき、オレ様は(あれ?)と思った。


今までの情報を総合すると、〈脂ぎった成金相場師〉というイメージだったのだが、実際のおとうさんはとても線の細い静かな感じの人だった。


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