第37話 前方倒立回転


────こちらに戻った。


オレ様は、壁に向かってものすごい勢いで突進している真っ最中だった。

走るための全細胞に力がみなぎった。


「どうしようというの、中村玄! あぁ、ぶつかる!」


ハナが叫んでいる。

目の前に壁が迫った。

まだまだ。

壁だ。

もう少し。

壁が。

もっと引き寄せて、壁、今だ。


壁に激突する寸前、オレ様は前脚を屈した。

上半身をグッと沈めた。

すると、その反動と惰性で下半身が浮き上がり、遠心力でオレ様の身体が浮上した。

さらに、縮めた前脚に筋肉がみるみる盛り上がり、爆発的に膨れ上がり、そしてそして、前脚でグイッと地面を押し返した。

すると……

あっ! あっ! 

跳んだ! 

オレ様の身体が、ポーンと宙を跳んだ! 

前方倒立回転だ! 

窓ガラスに下半身から激突した! 

ガラスをこなごなに打ちくだいて、外に転がり出た!


3、2……


着地した後、オレ様はそのままスピードを落とさずにまっすぐビニール幕に向かって突進した! 

ビニールに激突! 

その瞬間、ビニールをざっくりと切り裂いた。


オレ様は窓ガラスの破片を口にくわえていたんだ。


朝の涼しい風がどっと流れ込んできた。

動物たちはその開口部から次々と荒野に走り出た。

最後の一匹、それはオレ様だが、オレ様はガラス片をプッと地面に吐き捨て、人間たち

を見渡した。

兵士たちはアゼンとしている。

白い人は実験棟の前で震えていた。

涙を流していた。

オレ様は、兵士も白い人も平等にまんべんなく見つめた。

言いたいことはたくさんある。

だけど、もういいや。

きっぱりと荒野へと身体の向きを変えた。

走り出した。

ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ。

ガッシ、ガッシ、ガッシ、ガッシ。


老師が待っていた。

オレ様と並んで走った。


兵士たちが動き出した。

いっせいにトラックに走り、銃を手に構えた。


「撃てっ!」

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