第36話 シッポの力
とてつもないド迫力の走りで壁に走り迫った。
そして、シッポだ!
オレ様はシッポを振った!
こんな非常時に、激しくシッポを振った!
今だ!
「シッポのチカラ総結集!」
オレ様は、激しく叫んだ。
その瞬間、動物舎の外で待つすべてのシッポ動物たちが、
雷にでも打たれたかのようにビクンとオレ様を見た。
そして、反射的にそれぞれのシッポを急ピッチで振りはじめた!
もちろんハナも。
みんな、意味もわからず。
びゅんびゅんびゅんびゅん。
しゅっしゅっしゅっしゅっ。
すべてのシッポが猛ダッシュで振られた。
びゅんびゅんびゅんびゅん。
しゅっしゅっしゅっしゅっ。
びゅんしゅっびゅんしゅっびゅんびゅんしゅっしゅっしゅっ。。
オレ様は猛然と壁に走り迫る。
シッポ動物たちのシッポ回転がマックスに達した。
今だ!
吠えた!
オレ様は、まるで悲鳴のように、世界の果てまで届けとばかりに、吠えた。
「WOOOOOOOOOOOOOOOON!!」
オレ様は、シッポ動物たちが一致団結して増幅させたシッポ回転力によって、ワープし、ある場所に送られた──
──買い物帰りで塀ぞいに歩いていた隣家の房子おばあさんは、その塀の内側から突然、悲鳴のような犬の吠え声が響くのを聞いた。
WOOOOOOOOOOOOOOOON!!
おかしいわね、犬なんか飼っていないのに。
房子おばあさんは、その家の住人とは隣同士の付き合いだったし、なによりそれは、普通ではない絶叫だったので、気になって勝手口から庭に入ってみた。
すると、そこで目にしたのは、あとほんの数分発見が遅れていたら、間違いなく命を落としていただろうと後にお医者さんに診断されることになるほど衰弱の極限に達していた、らんおばあさんだった。
らんおばあさんは、正座してうちわと巾着袋を膝の上に置いたまま、すでに亡くなっている徳さんを見つめていた。
飲まず食わず、眠らずの一週間だった。
隣家の房子おばあさんに発見されるまで、自分の命をささえるすべての力を、徳さんを見つめることだけに注ぎつくした。
ひん死の状態で救急車にかつぎ込まれるときに、らんおばあさんさんは、
「オソレヤマに行かなくちゃ」とつぶやいた。
房子おばあさんは、
「なに言ってんのよらんさん、オソレヤマは死んでから行くところなのよ。しっかりなさい」
と、元気づけた。
オソレヤマに似た名前の霊山が北の方にあり、房子おばあさんはそれとかん違いしたようだ。
らんおばあさんの頭の中には、もはやいくつかの記憶のかけらしか残っていなかった。
それは、〈とにかく、オソレヤマに行かなくちゃ〉という強い思い。
しかもそれには、〈オソレヤマは死んでから行くところ〉という房子おばあさんの勘違いアドバイスがごちゃ混ぜになっていた。
だからこの後、入院していた病院を抜け出し、駅へ向かい、オソレヤマへ行くために、入線してきた電車の前に一歩踏み込むことになるのだが、異空間から届いたオレ様の叫びが、らんおばあさんの命をとりあえず救った。
とりあえず、第一の死の誘惑はクリアした。
とはいえ、依然としておばあさんは〈われ〉を失っている。
記憶界を救うには、おばあさんに〈自分が誰なのか〉を一瞬でも思い出させることだ。
この記憶界から〈記憶のもと〉に激しいショックを与えて、内部から記憶の鍵をこじ開けることだ。
今は扉そのものが消滅している状態だ。
〈自分が誰なのか〉を思い出した瞬間に扉は姿を現し、その時、鍵を開ける。
開いてしまえば、オレ様は自由に出入りできる。
つまり記憶界は残るのだ。
でも、〈自分が誰なのか〉を思い出させることができなければ、どんな危機を乗り越えたところで、いつまでも〈とりあえず〉であり、お茶を濁しているだけであり、根本的な解決にはならない。
つまり、消滅のタイマー、死のカウントダウンを止めることにはならないのだ。
〈自分が誰なのか〉、それがキーワードだ。
では、どうすればよいのか。
それができないから苦労しているんだけど……
〈とりあえず〉らんおばあさんが救急車に乗せられたのを見届けて────
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