第29話 死のスイッチ
オレ様は老師を見上げた。
老師は冷たく見下ろしている。
「ハナには黙っていたけど、オレ様は老師に警告されていた」
「警告?」
「この森から出て行け。お前たちは不吉をもたらす、って」
ハナは言葉を失っている。
「老師は正しい。オレ様たちがこの森に現れたことで、不吉なことが始まった。だから、老師の予感は当たっているわけだ。でもね、それはオレ様のせいじゃない。おばあさんの記憶が消えてしまい、そして死のうとしている。これがそもそもの原因なんだから」
「助かる方法はないの?」
「さあね。どうやら、スイッチが入ってしまったようだから……」
「スイッチって?」
「この記憶界から排除されるスイッチが入って、タイマーが動き始めたんだ」
「スイッチとかタイマーとか……」
「今、オレ様たちに起こっていることを考えてごらん。らんと徳さんが別れさせられ、らんの心が空っぽになってしまった。そして、オレ様たちは人間に追い詰められている。すべてが悪い方向に転がりはじめた。これからもっともっと絶望的なことが起こるかもしれない。いや起こるだろうな。死に向かうタイマーは記憶界消滅のカウントダウンだから、この運命の歯車だけは止められない」
ハナがオレ様の顔までよじ登って来た。
「おい、タンタン」
「ん? なんだよ、オレ様は……」
「アイドルのタンタンなんだろ」
「中村玄だ」
ハナは腕組みをしてオレ様をにらんでいる。
「どうしたんだハナ」
ハナは静かに鼻で笑った。
嘲笑ってやつだ。
「いやいや、お前は軟弱なアイドルのタンタンだね。中村玄じゃない。知ってる? 中村玄ってのはね、七十年の時空を超えてらんさんを助けに来たスーパーヒーローなんだ。排除のスイッチが入ったとか、死のタイマーは止められないとか、簡単に死を受け容れてあきらめるような軟弱なパンダじゃないんだよ。なんたって、中村玄は記憶パンダなんだから」
オレ様が言い返そうとした時、ハナが何かの気配を感じて空を見上げた。
「あ」と呟いた。
空から何かが降って来た。
枯れ枝だ。
「小太郎が落としたのかしら」
枯れ枝はオレ様たちの目の前に落ちて結構な音を立てた。
その音に人間たちが振り返った。
男たちとオレ様の目が、バッチリと合った。
「やばい!」
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