第27話 山狩り


一か月ほどたったある日の早朝。


朝霞の漂う畑の向こうから、数人の村の男衆がやってきた。

みんな、殺気立っていた。

眉間にしわを寄せて怒っていた。

一人は猟銃を抱えていた。


それを畑のそばで見ていたオレ様とハナ。

寝起きでぼんやりしていた。

油断していた。

突然、猟銃が火を吹いた。

オレ様のすぐそばの土が跳ね上がった。


「あの白黒だな、うちのニワトリを襲ったのは」


男が再び銃を構え直した時、オレ様はダッシュした。

走って、跳んで、銃身に体当たり。

バランスを崩した銃は空に向けて発射された。

オレ様は男たちに蹴り飛ばされた。


「この白黒野郎っ!」


ボールか雑巾のように蹴られるままだ。

男が銃をオレ様に向けた。


「一度人を襲ったらクセになる。つぶしちまえ!」


ハナが走った。

男の足元から駆け上がり、首筋に噛み付いた。


「痛っ! な、なんだ!?」


オレ様とハナは、一目散に森の中へ駆け込んだ。

背後で男たちが叫んだ。


「山狩りだあ!」



山の駐車場には、山狩りの車が続々集まってきた。

車から降りた男たちは、猟銃や捕獲網などで武装し、やたらと興奮している。

オレ様とハナは、木立の間に隠れて様子をうかがっていた。


「なんなの。いきなり、あの白黒だ、ズドンって」

「どうしてオレ様がニワトリを襲ったなんて疑うんだろう」

「いいえ、あれは疑ってはいなかった。確信していたわ」

「だから、どうして……」


リーダーらしき男が叫んでいる。


「おい保健所! 白黒を発見次第、撃っていいな!」

「でもおたくのニワトリを襲ったのが白黒だという確証はあるんですか?」


リーダーは、ポケットに手を突っ込んで、数本の毛をつまみ出した。

それを保健所さんの目の前に突きつけた。


「ニワトリ小屋に散らばってた白黒の毛だ」


オレ様、びっくり。

「なんで!?」


ハナもオレ様の顔を見た。


「どういうこと?」

「わかんないよ」


視線を感じた。

ん。

誰かに見られている。

上空だ。

カラス。

小太郎がゆっくり旋回しながら、オレ様を見下ろしている。

ん。

あの穴。

斜面に開いた小さな冬眠穴。

そこからリスとタヌキとウサギが顔を出してこちらを見ている。

ん。

木のてっぺん。

そこに、誰あろう、老師が立っていた。

そして、オレ様を見下ろしている。

カラスも、リスも、タヌキも、ウサギも、そして老師も、みんながオレ様を見ていた。


「森のみんなが助けに来てくれたんだね」


ハナがみんなに手を振った。

オレ様は、森のみんなをにらんだ。



駐車場から怒鳴り声が聞こえた。

「なに言ってんだおめぇ! ヤツら人を襲ったんだぞ! 当然、処分だ!」

「いや、まあ、保健所としましてはですねぇ、まず捕獲というのが決まりですから」


他の男も保健所さんを非難する。


「捕獲ったって、どうせ収容所でつぶすんだろ。火ぃつけてよ」


保健所さんはたじたじだ。


「いきなり火葬にはしません。まず、薬殺です」


火に油を注いでしまったようだ。


「捨て犬の殺処分、一回見たことあるけど、すぐ死なねぇんだよな、あれ」

「ああ。アワふいてのたうちまわって。そのまんま火ぃつけられて」

「生きたまま火葬かよ」

「保健所、テメェらひでぇな」

「それでも人間かよ」


リーダーが猟銃を背負って、最後に言い放った。


「俺たちゃ動物好きだ。苦しませねぇ。こいつで一発即死だ」


男衆たちは、強くうなずいた。


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