第21話 らんの場所で


イオウの小さな丘を越えてそれを見たとき、らんはアッと息をのんだ。


そこは、花のじゅうたんだった。


徳さんはひとつひとつ、そこに咲く花の名前を読み上げて行く。


「キンらん、ギンらん、クマガイソウ、ネジバナ、トキソウ、ノビネチドリ、シュンらん、アツモリソウ、サルメンエビネ、コケイらん」


まるでたいせつな人をらんに紹介するように。


「ぜんぶ、ランの仲間なんだよ」


らんは、どうして? というふうに頭を小さく振っている。


「ぼくはここを、らんの場所と名づけた」


らんの目が。

揺れている。

ふるふると震えている。


「らんの場所……」


そう口に出した途端、まん丸い真珠が一粒、らんの目の中から溢れて出た。

それは涙の粒だった。

粒は膨み、そして、落ちた。

次から次へ、涙が膨らんではポロポロと落ちて、オレ様の頭上から降り注いだ。


「どうしたの?」


と驚いて尋ねる徳さんにではなく、らんは足元のオレ様に、らんの涙を浴びてびしょ濡れのオレ様に視線を落として、つぶやいた。



「……ここ……きたことがあるよ」



オレ様もだ。


はじめてなのに、はじめてじゃない。

そういう時の、こころさわぐうれしさ。

たいせつな〈なにか〉に出会ったような、深いなつかしさ。

でも、それがなんなのかどうしても思い出せない。

そんなせつない気持ちがどっと押し寄せてきて、オレ様は心が圧倒され、かたやらんは涙が止まらない。



らん。

おまえの記憶界は、謎が多すぎる。

オレ様は、もうすでにクタクタだよ。

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