第17話 出て行け


ある日、伝令が来た。


というか、空から落ちてきた。

らんが洗濯をしていた時、オレ様の目の前に一本の枝が落ちてきた。


「危ない!」


とハナが叫んだくらいだ。

オレ様の鼻先すれすれに落ちてひやっとした。

空を見上げるとカラスの小太郎が旋回していた。

カアと一声叫んで森へ飛んで行った。

その声には怒りがこもっていた。

オレ様は深いため息をついた。

そして決心した。

みんなの怒りの理由を問いたださねば。


オレ様は一人で森へ入った。

森の中を歩いていると、老師が険しい表情でオレ様を迎えた。

「白黒、お前は、何をしにこの森へやってきた」

「らんの記憶を探しにきたんだよ」

「記憶?」

説明するのがめんどくさかったのでそれ以上は黙っていた。

だって、オレ様の周りをリスやウサギやタヌキの親子やカラス、つまり森の仲間たちがぐるりと取り囲んでキッツイ目で睨んでいるんだもの。

これは、説明が通じる状況じゃないのはすぐわかる。


老師が突然宣告した。


「出て行け」

「はあ?」

「この森から、とっとと出て行け」

「なんで?」

「お前らがきてから、この森がヘンだ」

「ヘンって。どうヘンなの」

「ヘンはヘンだ」

「だから、ナニが、どんなふうに、アレだから、ヘンなんだって説明してよ」

「やかましい。お前のせいだ」

「はあ? 意味わかんないし」

「わしにはわかる」

「さすが老師様。なんでもお見通しなんスね」


老師はカチンときたようだ。

急にどもり始めた。


「お、お前らは、も、森の秩序を乱す、い、い、忌まわしき存在だ」


ヤバイヨヤバイヨ。

老師ったら、こめかみに血管が浮いて小刻みに体を震わせ始めた。


「いいい今すぐ出て行かんと、わわわしらが力ずくで、お、おおおおおおお追い出す」


そう言ってオレ様をビシッと指差した。

周りの元仲間たちも全員指差して唱和した。


「追い出す」


ほんとにもぉ、ひとのこと指差すなよな。


でも。

ぶっちゃけ、老師は正しい。

確かに、オレ様がきてから、この森の調子が狂ってきている。

というか、今までの森の様子は知らんけど、確かにヘン。

何がヘンって、おばあさんの消え方が、ヘンだ。

すごく、ヘンだ。

気になる。

けど、いまオレ様たちになにが起こっているのか、どうすれば正しい方向に軌道修正できるのか、まったくわからん。


ここはらんの記憶の森。

彼らはここの住人。

オレ様はよそ者。

無断でこの世界に侵入してきた挙動不審で秩序を乱す白黒。


ああ、とってもめんどくさいことになってきた。


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