第13話 オレ様は氷水の中で死ぬのか


オレ様は、おばあさんを探して氷の下を泳ぐ。

ほたる湖の水はとても透明だ。

そして、痛いくらいに冷たい。

その透き通って痛い水中のどこにもおばあさんはいなかった。

どこへ行ったんだ。

どうしてなんだ。

いったい何が起こっているんだ。

氷の上をいろんな影が走っている。

追いついたみんなが、氷の上をおおう雪を急いで取り除いている。

氷越しに、老師がきびしく指示を飛ばしているのが聞こえる。


「見失うな! 白黒を死なせてはいかん!」


小太郎もドンもポンポコも、らんもラッタも、そしてハナも老師も、水中のオレ様を追

って走り回っている。


「そっちへ行った!」

「急げ、あっちだ!」


ハナが叫んだ。


「氷を割ろう! みんなで割ろうっ!」



全員がオレ様の真上に集まり、いっせいにジャンプ。

も一度ジャンプ。

ハナは老師に泣きつきついている。


「老師、割れない! 今年の氷は薄いんじゃなかったの!」


そのとき、


「どうしたの!」


と走って来る少年の声が聞こえたと思ったら、


ミシミシッ! バリバリバリバリバリ!


氷が割れると同時に、スキーの板が水中に落ちてきた。

その子がスキーの板で割ったらしい。

でも、もうオレ様は冷たさも感じなくなってしまった。

息が、思うように続かない。

湖の中が急に暗くなった。

あれ、夜になったのかな。

ハナが何か叫んでる。

ハナの叫び声が遠くなる。

オレ様は、ぐったりとなったまま、その割れ目からあおむけに浮かび上がった。

少年が水中に飛び込んでオレ様を抱きかかえると、素早く這い上がった。

らんがオレ様を受け取り、ぎゅっと抱きしめて、両手で必死にさすってくれた。

ハナもオレ様の顔を泣きながらこすっている。


「中村玄、死なないで、死なないで」


少年は、らんの手をグッと引いて叫んだ。


「さっ、家へ行こう! 早く暖めなくちゃ!」


オレ様は、意識もうろう、肉体ぐったり。

らんのセーターの懐に入れられて、少年の家に緊急搬送されたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る