第6話 らんを救うぞ!


ハナは、これ以上オレ様の講義を聞くのはあきらめたようだ。

謎が解けたのかどうかわからんけど、周りをキョロキョロ見回している。

その目は、未知の世界に飛び込んだというワクワク感でキラキラしている。

単純なネズミだ。つまり、善良、ということだ。


おや。

らんが急に表情を曇らせ、眠っている徳さんを見つめた。


「中村玄、わたしね、あんなに大好きだった歌も、今は歌えなくなってしまったの。ぼろぼろになるまで使い込んだ童謡歌集を開いても、聴いたことのない、初めての歌ばかりなのよ。怖くてたまらないの。記憶がゆっくり消えていくのよ。でもね、自分の命と同じくらいにたいせつなものだけは、このくたびれた巾着袋に入れていつも持ち歩いているの」


そう言って、古びて色のあせた巾着袋を胸に抱いた。


「でも……でもね、この巾着袋をどうして持ち歩いているのかさえ、時々思い出せなくなっているのだけれど」


ハナがグスッと鼻をすすった。


「らんさん……かわいそ」


らんは薄い闇を通してオレ様をまっすぐに見た。

その目には記憶の光が宿っている。


「中村玄、あそこへ戻りたい。あの場所へ」


それを聞いてハナがオレ様の尻を蹴った。


「シッポ!」


ったく、お前様はオレ様のトレーナーか。

蹴られて言われるまでもなくオレ様はシッポを振るさ。

ほら、ピュンピュンって。

するとハナが急いでオレ様にしがみついた。


「もう、こうなったらとことんつきあうわ!」


それはもちろんOKなんだけど……

でも……オレ様は眉にシワを寄せてうめいた。


「……らんの記憶がどんどん薄くなっている。まるで、滝がものすごい勢いで流れ落ちるように、らんの心から記憶がすさまじい勢いで脱落しはじめてる」

「がんばれ! だってあなた、らんさんを助けにきた記憶パンダなんでしょ、ほらがんばってシッポシッポ、振って振って、七十年ぶりに駆けつけたスーパーパンダ!」


順応してくれたのは嬉しいんだけど、ちょっとウザいぜキミ。

それに、さっきからじっと見下ろしてるひまわりたちの無言の応援も圧が強くてちょっとなあ。


でもオレ様は誇り高き記憶パンダだ。

ケナゲにリリしく胸を張ってシッポを振り続けた────

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