第5話 なぜオレ様が記憶パンダなのか
らんは、両手の指をお祈りのように組み合わせて、胸にぎゅっと押し付けている。
昔と一緒だ。
こんな時のらんは、頭の中で様々なことがぐるぐると駆け巡り、まぶたの裏が焼けるように熱くなっているんだ。
昔からそうだった。
「中村玄。らんと徳さんは八十五歳になったのよ。だから、あなたと会うのは……」
指折り数え、
「七十年ぶりね」
ハナが飛び上がった。
「七十年って!? そんなバカな。パンダがそんなに生きられるわけないじゃない!」
「だ・か・ら、ここは記憶界で、オレ様は記憶パンダなんだから時を超越してるんだって」
ハナは興奮をしずめるように、ゆっくりと深呼吸をした。
「わかったわ。しょうがないから記憶界は認めることにする。でも、なぜあなたが記憶パンダなの? ただのジャイアントパンダであるあなたが、どうしてそんな力を持ってるの? それに、体が縮んだのはなぜ? なにゆえに? どうして?」
「そんな疑問は無意味、たわけ、ナンセンス」
「…え?」
「だってさ、シッポを振ると勝手に記憶界に飛び込んじゃうんだから。それに、ムンッて踏ん張ると体が縮んだり膨らんだりする。勝手にね」
「だから、なぜなの……」
「ほら、空をごらん。鳥が一羽飛んでるね。どうして飛べるの? って鳥が疑問に思う? 鳥を見上げて、あれに何の意味があるかって誰かが思う? 雪は降る、風は吹く、鳥は羽ばたき、パンダは縮んでシッポを振る。そういうことなんだ。自然なことなんだ」
実際、そうなんだからそうとしか言えない。
シッポを振ると記憶界の扉が勝手に開くんだから、〈意味〉とか〈理由〉とかに関係なく。
オレ様のシッポ振りは、〈意味〉を超越しているんだ。
ていうか、意味なくシッポを振るのがオレ様流の生き方だ。
〈意味なく〉とは、〈もれなく〉ということ。
〈相手を選ばず〉と言ってもいいし、〈なにひとつ判断しない〉ということでもある。
犬と同じ。
シッポを振っている時の犬の目を思い出してごらん。
迷いなく、目の前のあなたをとことん信じきってシッポを振り抜いているでしょ?
なぜあなたなのかって?
勘違いしないで。
犬のシッポ振りはあなたという個人への愛情の表現ではない。
目の前にいるからなんだ。
犬は選ばないのだ。
判断しないのだ。
みごとなまでの平等と確信だと思わないか。
そのゆるぎない姿。
まさに、一所懸命、ひとところで懸命にシッポを振る。
それと同じ。
それが、シッポを振る記憶パンダであるオレ様の、生き方の根本なのだよ。
って、自分のことを偉そうに語るヤツの話ほどいい加減なものはないから、信じなくてもいいけど。
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