第46話 鏡による相対化の危険

 公園での事件、それが自殺だったのか殺人だったのかはどうでもいいらしいのだが、街に不自然な不審感が流れたため警察が色々と調べ、辻褄をつけようとしていた。

 アパートの住人であり、また新住宅建設を要求している我々が当然のように、真っ先に捜査対象にされた。俺がやっている署名活動にしても新住宅建設運動にしても実際のところ参加しているのは俺だけで、署名もすべて俺のものだ。沢山の住民が参加しているように見えているようだが、それは鏡に映ったり、社会に拡散している俺に過ぎない。辻褄の法的にはそれで問題ないが、違う辻褄を目指す議員たちとの繋がりもあって、俺は事件の捜査対象となっていた。しかし違う辻褄を目指す議員たちは鏡を持ってはいない。根本的な創造は不可能だ。


「先日の事件について聞きたいのですが」

 あのときと同じ警官がアパートに来た。

「前と同じですよ。殺して死体を公園の老木に引っかけて乾かしただけです」

「まあ、そんなところだと予想はしていましたが。他に関わった人は?」

「弟と鏡の男と女です」

「鏡の男と女? 何ですかそれは」

 警官の表情が硬くなった。

「普通、鏡には姿が映るでしょう。あれです」

「それはあなたの姿のはずですが・・・」

「そうです。私の姿ですよ。彼らが手伝ってくれましてね。助かりましたよ」

 しばらくの沈黙のあと警官が言った。

「記録によると、あなたは先の事件でやさしい薬と講習を受けたことになっていますが、修了証はありますか」

「ええ、これでしょ」

 俺は以前、辻褄の法定で決められた講習の修了証を見せた。

「なるほど、確かに。やさしい薬はまだ処方されていますか?」

「はい。弟も母もまだ飲んでいますよ」

「お母さんは、いまお仕事ですか?」

 警官がしつこく聞く。俺は少し声を荒げて答えた。

「いまは、街の方の家にいると思いますよ!」

 雰囲気を感じ取ったのか、警官は笑顔を作り最後に確認した。

「分かりました。それで鏡に映ったあなたは実際のあなたでしたか。それとも想像したあなたですか? 鏡には本質的に相対化の危険もありますので・・・」

 俺は少し考えてから答えた。

「分かりません。しかし私であって私でなかったり、まったくの別人だったりで。そんな感じのものです。しかし私でしょう。私がいくらいても法に触れる分けではないし、問題はないでしょう」





(つづく)


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