第45話 別の辻褄の住民と政党

「今日は俺たちを応援してくれる市議さんたちと会合があるんだ。そこで俺たちの要求を伝えて、彼らに強く要請してもらうんだ」

「あまりそういう人と関わらない方がいいんじゃない」

 母が言う。

「出来たら俺もそうしたいけど、仕方がないよ。住民だけではどうにもならない。鏡が必要なんだ。議会で多数意見になれば状況はもっと良くなるかも知れない。実際議会の提案、要求なんてほとんど市政には反映されないけどね。市政を司っているのは市行政だからね。総務とか企画とかね」

「兄ちゃん、そういうことに詳しくなったな」

 弟が驚いたようにそう言った。



 実際、この立退たちのき問題が発生して以来、色々と勉強もしたし市行政のみならず市議会議員たちにも相談をした。市行政を議会で支える市議たちは、けんもほろろの反応だったが、行政に反対することが役目の議員たちは話しを聞いてくれた。彼らは根本的にいまの辻褄の在り方に不満を持ち、別の辻褄を創り上げようとしている。どんな小さな餌でもそれに繋がるとみれば食いついてくる。ただ各々、その方法が違うようだった。


 地方政治は二元代表制になっている。市長などの首長も議員も住民が直接選ぶ。それが彼らの唯一にして最高の権威であり存在根拠とされている。そういう辻褄だ。住民だけに選ぶ権利がある。

 住民には、男女の別、納税額の差、障害の有る無し、学歴、学校歴の歴然とした差にかかわらず、どんな人にも平等に同質、同量の近代理性があると信じられているからだろう。そんなもの見たことはないが、とにかくそういった仮設を力業ちからわざで創り上げ、合意に参加したり権利を主張したり自由を謳歌したり、また責任や義務を果たしたりする近代的市民には違いないのだ。歴史的に相対的ではあるが、そういった仮設の人間観、社会観が今を作って回している。これを否定する議員はいないようだったが、現在の辻褄の方法に異議を唱えるものはいる。別に鏡は持っておらず方法の放棄まではしないが、違う辻褄を想像はしているようだった。ただ彼らでさえ鏡は見ていないし気づいてもいないだけだ。






(つづく)


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