第42話 新住宅建設運動

「兄ちゃん、最近、立退たちのきの件で何かしてるんだって?」

「うん、どうせ立退きは避けられないだろ。それなら新しくて便利なところの方が良い。だから市に新しい住宅を建ててもらって、安い家賃で暮らせるようにと思ってさ。だんだん賛同する人も増えてるよ。賛同者が沢山いれば、市も反応せざるを得ないだろう」


 俺は次に住むところがより良い環境になればと思い、いまは体調の問題もあって仕事をしていないので、地域で代わりの住宅建設を市に求める運動をしていた。弟も母も新しい集合住宅の建設や引っ越し代の補助、低家賃については喜んでいたが、その運動を俺がしていることを知ると怪訝けげんな顔をみせた。

「街の方でも噂になってるみたいだよ」

「そうらしいな。でも構っていられるか、そんなこと。あいつらは俺たちを追い出したいんだろう。アパートを壊して綺麗な公園にでもしたいんだろう」


 ここから徒歩で数分のところに街がある。中流家庭の建て売りが連なる住宅街だ。住民同士の接触はほとんどないが、何か問題がおこるたび、こちらを白い目で眺め、ときにあらぬ噂を想像し騒ぎ立てる。あいつらには関係のないことだ。こっちは生活がかかっているんだ。

「アパートがなくなったあとに、また集合住宅の群れなんか建てられたら、我々納税者、市民が困る。治安の問題もあるでしょう・・・」

 署名を集めているときに直接そう言われたこともあった。しかし俺たちに一体、どうしろというのだ。

 先日、公園で自殺なのか殺人なのかは知らないが、何か問題が起こったようだ。これについてもこちらの問題だと街の人間たちは噂しているようだった。


「母さんの体調は、最近どうなの」

 俺は話題を変えようと弟に聞いた。

「だいぶ良くなってるみたいだね。あまり母さんに心配かけないでよ」

 弟は自分の病気のことを棚に上げ母の心配の種を俺に押し付けるように言う。

「分かってるよ。お前もな」





(つづく)


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