第41話 なにかが分からなくなった

「どうしたの。またそんなことして」

 私は、私の写真や日記を黙って眺めている母に言った。

「こうしてあなたの日記なんかを眺めていると、少し心が安まるのよ」

 母は聞き取れないほど小さな声で答え、また日記に目を落とした。


 母はここひと月ほど気分がすぐれず、ふさいでばかりいた。私のことについて、私に話してばかりいる。ときには涙を流すこともあった。

「あなたが、あんな形で死んでしまって、どうすればいいか・・・」

「考えても仕方がないと思うよ」

 私はいつものように答えた。

「なにか理解したいんだと思うのよ」

 母がぼそっとつぶやく。

「それは分かるけど」

 それ以上、返す言葉がない。正直、起こってしまったことはどうにもならないのだ。私はそう割り切ろうとしていた。しかし母はそうはいかないようだった。その気持ちは十分すぎるほど分かった。

「カウンセリングには行ってるの」

「行ってはいるけど・・・」

 母に恐らく責任はない。しかし母はそれに重い責任を感じ、自分を責めてもいるようだった。

「正解とか、答えとかはないんじゃないかな、たぶん」

「そうかもね」

「本人も分からなかったと思う。分かっていたら公園の老木にロープをくくり付けてぶらさがらなかったと思う。なにか、うまく言えないけど、なにかが分からなくなったんじゃないかな。生きていくうえでとても大切ななにかが」

 私はそう言うと、また慰めるように母の姿を眺めた。






(つづく)


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