第19話 犯人
その夜。
明かりもついていない、とある部屋。
暗闇の中を静かに扉を開け、部屋に滑り込んでくる人影。後ろ手に扉を閉める。
人影は足音も無く、部屋の中央にある大きな
「それはただの人形ですよ」
――人影の背後から語り掛ける声。
「あなたは今夜、必ずここに現れると思っていました」
久頭はどこか楽しそうな調子で、大きめな声を部屋に響かせる。
人影が何かを弁明しようとしながら振り返る。
「クズ君、いたのかい? 何か誤解しているようだけど……」
「ハイメさんに協力して貰った甲斐がありましたよ。あなたは今夜、国王はこの部屋で寝ていると、しかもここは極秘だから部屋の中に警備はいないと……そう聞いたんですね。しかし、実際は違う」
久頭はその人影の言葉を遮り、言葉を続ける。
「ここにあるのはその人形だけです。国王は別の部屋でゆっくりお休みになってるはずですよ。もちろん、念のため警備が何人も着いた状態で、です。あなたがハイメさんから聞いた情報は、あなたを罠に嵌めるための偽の情報です。その情報を聞けば、あなたは今夜ここに現れる」
「確かにそう聞いた。でも私がここにいるのは、国王様の容態が心配で見に来ただけで……」
「もういいでしょう。そんなつまらない芝居はやめましょう」
人影はまだ弁明を諦めたわけではない様子だ。
しかし、そんなことはお構いなしに久頭は言う。
「あなたは来た。国王を――殺すために」
「一体何を根拠に……」
「そうでも無ければ、部屋に入るはずがない。この国でそれはあり得ない。あなたは知らないかもしれませんが……国王の部屋に緊急時以外に踏み込むのは、死刑すらありえる罪だそうですよ。つまり、この部屋に踏み込むのは余程の理由がある者だけです。昨夜二人を殺害し、今夜も国王の殺害を企てた犯人……」
そして久頭は――目の前にいる犯人の名を口にした。
「つまりあなたですよ、騎士団員トゥレイスさん。あるいは……トゥレイスさんのフリをした『魔人』、と言った方が良いかな?」
場の緊張感は、今や最高潮にまで高まっていた。
トゥレイスは、いやトゥレイスの姿をした『魔人』は何の感情も感じさせないのっぺりとした表情をしている。
彼は静かに問う。
「……私が『魔人』? 面白い事を言いますね。むしろ私は、魔人と戦っている騎士団の一員ですよ」
対照的に久頭は口調こそ丁寧だが、もはやはっきりと嘲りが感じられる口調で言葉を返す。
「まだトゥレイスさんのフリを続けるんですか? なるほどこの部屋は罠だったけど、この場を誤魔化せれば、まだチャンスはあると? そう思ってる?」
「……」
反応を窺うが、大きなリアクションは無い。
(挑発には乗ってこないか……冷静だ。ハイメさんの言っていた通り、魔人は知能が高い。厄介だな)
とは言え、ここまでは想定通りだ。全ては久頭の思惑通りに動いている。
挑発に乗ってこないと見た久頭は出方を変える。
「……なるほど、ヤケになって今ここで俺を殺しても、あなたが魔人である事は確定してしまう。そうなればあなたの目的は果たせず、ハイメさんから逃れられる保証もない。それよりは自分が魔人では無いと言い張る事にした、と言うわけですね。気持ちはわかりますが、今はそれは悪手です。俺はもうあなたが魔人である事を確信している。そうですね……納得して頂けるように説明しましょう。なぜ、あなたが魔人であると推理出来たのか?」
久頭は芝居がかった動作で、人差し指を立てた右手を顔の前に持ってくる。
そして推理を語り出す。それが彼の切り札だと信じて。
「さて――犯人は何者なのか? 大まかな推定は死体の状況から簡単にできます。犯人は尋常ではない力を発揮できる者、つまり魔人か何らかの権能を持つものです。ところで、あなたは宝木の権能が何か知っていますか?」
「……昨日ドゥーべさんに話しているのが聞こえたよ。『不変』がどうとか……」
「そう、あの部屋にいましたからね。あなたは宝木にはあなたの権能の効果も効かない事を知っていた。さぞ迷ったでしょうね、宝木を殺すべきかどうか。しかしもう迷う必要はありません、手遅れです。俺が彼女に『謁見の間』の死体を見せましたから」
その言葉を聞いた瞬間、魔人はチラリと窓に視線を走らせる。
間髪入れずに久頭が彼を制する。
「おっと、窓の外はダメですよ。そちらに逃げるのはおすすめしません。万が一に備えてハイメさんに待機してもらっていますから。あなたも『魔人殺し』とまともにやりあう展開は避けたいのでは?」
これは事実だ。この作戦は魔人を逃さない事を第一優先目標にしている。最も可能性が高い逃走経路である窓を突き破るルートには、最大戦力であるハイメを配置した。当然、城の中にも一杉達を配置し逃走経路は塞いである。
いよいよ誤魔化しが効かないとなれば、魔人は逃げ出す可能性が高い。久頭は事前にそう予想していたが、今のリアクションでその予想の正しさを確信した。
(予想通りだが、判断が早い。一言「宝木に死体を見せた」と言っただけで逃走に思考を切り替えている)
久頭は警戒を強める。それでも話し続けることはやめない。
「……話を続けましょうか。宝木に死体を見せた事で、あの死体には何らかの権能の効果が及んでいたことが判明しました。それによって、見た目が変わっていた。実際にはマルコさんの死体では無く、昨夜広間に現れた『魔人』の死体でした。犯人の権能の名前まではわかりませんが……そうですね、名前が何かないと不便です。参考までに聞きますが、《偽装》と《虚飾》ならどっちがその権能にふさわしい名前だと思いますか?」
「……《虚飾》だろうね」
トゥレイスの姿をした魔人はうっすらと笑みを浮かべて答える。先ほどまでの無表情とは様子が異なっている。
よくない兆候だ、と久頭は内心で呟く。魔人は既に誤魔化す事を諦めつつある。表情や雰囲気の変化がそれを物語っている。だが、久頭の話はまだ終わっていない。この話が終わる前に逃走に移られると、計画は狂ってしまう。
魔人が動き出さないか警戒しつつ、久頭は言う。
「では仮に《虚飾》としておきましょう。犯人は被害者を殺し、《虚飾》でマルコさんの死体に見せかけた。つまり犯人は《虚飾》の権能を持っているわけです。そして《虚飾》の権能では魔人のような強い力を発揮できるとは思えません。この時点で、犯人は《虚飾》の権能を持った魔人であると推定できます」
厳密に言えば、と久頭は内心で付け加える。久頭のように複数の権能を持っている可能性も0ではない。しかし、この世界の歴史上では複数の権能持ちは確認されていないからその可能性は著しく低い。
その時、魔人が口を開く。うっすらとした笑みは変わっていない。その口調はどうにか誤魔化そうと気はもはや無く、ただ久頭の理解を確認しているかのようだった。
「しかし、犯人が魔人だとすると妙な話ですね。殺されていた方も『魔人』だったんでしょう?何故仲間同士で殺し合ったんでしょう?」
「それは簡単な話です。別に犯人とその『魔人』は仲間でも何でもなかったんですから」
「……なるほど、本当に全てわかっているようですね。どうぞ、続けてください」
魔人は興味深い、と言った様子で先を促す。逃げ道は塞いであると言うのに、焦る様子もない。
(《虚飾》の権能を上手く使えば逃走は不可能ではない。それに……既に逃走経路が塞いである以上、今逃げ出しても話を聞いた後で逃げ出しても変わりはないと判断したか)
久頭はひとつ頷くと、それに応えた。
「もっとも、あの殺しは犯人にとっては予定外の事故のようなものだったはずです。犯人は殺人後、警備の者が来る前にすぐに逃走しています。それは誰にも見つかりたくなかったからです。本来であれば、犯人はこっそりと国王の部屋に忍び込み、目的を果たすつもりだった。その目的は単純な国王の暗殺ではありません。殺すことだけが目的であれば、警備の兵士達も殺して更に国王も殺してしまえば良かった。しかし、実際にはそうしなかった」
久頭が真っ先に疑問に思った点はそこだった。結局、犯人は何を目的に動いていたのか?
「犯人の目的も《虚飾》の権能を前提にすれば推測することができます。俺の推測はこうです。犯人は国王を殺害後、《虚飾》の権能で自身を国王に見せかけ、成り代わろうとしていた。そう考えれば、襲撃があったことすら悟られずにいつの間にか成り代わっている状態がベストです。警備の兵士達を殺した後に成り代わることもできますが……兵士達は死んでいるのに国王だけ健在と言うのはあからさまに不自然です」
犯人は警備の兵士達に気付かれた時点で、判断に一瞬迷ったはずだ。そのまま兵士達も国王も殺し、多少不自然でも強引に成り代わるべきか。それとも一度出直して別の日にこっそりと成り代わるか。
「順を追って説明しましょう。まずあなたは、戦場の混乱の中で本来のトゥレイスさんを殺害。《虚飾》でトゥレイスさんに成り代わった。ハイメさんは今回の遠征で魔人が姿を見せなかったと言っていました。トゥレイスさんにこっそり成り代わっていた、それが魔人が姿を見せなかった理由です。トゥレイスさんに近づく前にも魔物に見せかけて近寄ったんでしょう。
あなたは騎士団員トゥレイスとしてまんまと城内に潜入した。そして警備が薄い夜間にこっそりと国王の部屋に忍び込み、殺害後成り代わろうとした。国王の死体は……《虚飾》でトゥレイスさんの死体に見せかけてどこか別の部屋にでも配置するつもりだっんでしょうか? 事故死の死体とかに見せかければ完璧です。周囲は何の異常にも気付かず、ただ一人の不幸な騎士が死んだだけ。それだけで国王への成り代わりが可能です。
国王に成り代わった後は、魔人に有利になるよう動くつもりだったんでしょうね。国王の権力があればできることは色々とあります。魔人が罠を張っている戦場に出撃を命じて戦力をすり潰す、邪魔な人間に何らかの罪を着せて排除する、重税を課して民を疲弊させても良いし税を無為に使って戦力を落としていっても良い。国王の立場で人間側の詳細な情報を得られるだけでも十分以上に効果的です。上手く成り代わっていれば、人類を意のままに滅ぼせたことでしょう」
効果的に使えば《虚飾》程の恐ろしい権能もない。一見、直接戦闘の面で見ればそれほど脅威となる権能ではない。しかし、人類そのものを相手取り滅ぼそうとすれば、戦略的に人類を駆逐する必要がある。魔物を引き連れ戦闘していくのも時間がかかるし、激しい抵抗がある。魔人側の戦力も有限なはずだし、強力な力を持つ魔人もその数は少ない。人類は一人一人殺していくにはあまりにも数が多い。だから戦略的に人類に打撃を与える手段を講じた。それがこの計画――国家のトップに成り代わり、操り、自壊させる計画。これ以上無く効率的、効果的な手だ。
何より恐ろしいのは、魔人が戦略的に戦いに臨んでいると言う点だ。彼らは個としての直接戦闘能力も高いが、ただの脳筋ではない。冷静で、判断力があり、計画性に富み、狡猾だ。敵に回すには最も恐ろしい性質を備えている――。
「しかし、計画には
あなたは一瞬迷ったはずだ。そのまま兵士達も国王も殺し、多少不自然でも強引に成り代わるべきかどうか。しかしそうはしなかった。あなたの計画は国王に成り代わることで終わりではない。その後、いかにこの国を操るかが重要です。だから国王への不信感が増し、権力が減りかねない状況は避けたかった。だからあなたは一度撤退し、次の機会に成り代わりを果たす事を目論んだ。
そこでひとつ問題が発生します。殺してしまった『魔人』の死体をどうするべきか。実はあなたも何故そこに『魔人』がいたのかわからなかったはずだ。いや、そもそも仲間でも何でもないこれは一体誰なのだ? そう思ったはずです。しかしそのまま死体が残っていれば、魔人の襲撃があった事は明白です。できれば自然に国王に成り代わりたいあなたは、咄嗟に出来るだけ魔人の襲撃である事を隠そうとした。その結果が《虚飾》でマルコさんの死体に見せかける、と言う方法です。そしてあなたはすぐに逃亡した。
はっきり言ってあまり良い方法だったとは言えません。死体の状況から、魔人の犯行であることは簡単に推測できてしまいますから。兵士が迫ってきている状況での咄嗟の判断ですから、そんなものでしょう。本当は死体以外の何かに見せかけたかったところでしょうが……あの部屋は死体から噴出した血液で様々な物が真っ赤に染まっていました。対象物が多すぎてそれら全部を《虚飾》で正常に見せかける事は出来なかった」
一杉との会話を思い出す。権能を複数の対象に発動するのは難しい。しかも対象物が多くなればなるほど難易度は増す。おそらくこの魔人が同時に発動できる対象は最大2つ……いや、3つ。すなわち、自身と、最初の死体と、もうひとつ。それだけで手一杯だったのだろう。
「その誤魔化しはしかし、更に様々な問題を引き起こします。まずあなたは咄嗟に思い浮かんだマルコさんに死体を見せかけました。最初に思い浮かんだ兵士がマルコさんだったとか、その程度の理由でしょう。しかし、その時点ではマルコさんは生きていて、塔で見張りをしていました。死体が発見されたのに本人が生きていてはまずい。あなたの《虚飾》の権能の効果がバレる可能性があります。そうなれば計画は破綻です。だからあなたは塔に様子を見にいく振りをして、彼を殺害し、死体を隠した」
しかしその時点で魔人は権能の
「もう一つの大きな誤算は宝木の権能です。彼女が最初の死体を見れば《虚飾》がばれてしまう。あなたは彼女も殺すべきか迷ったはずですが……彼女には従者が常についていました。彼女を殺そうとすれば、最低でも腕の立つ従者も一緒に殺す必要があります。ただでさえ事件が起きている状況で死体が2つも増える、そうなればますますあなたの理想とする自然な国王との入れ替わりも遠のきます。だから結局あなたはそうしなかった。普通に考えれば、まだ来たばかりの客人である彼女が事件現場に行って死体を目にする可能性は低いですし、実際俺が見せなければそうはならなかったでしょう。それに国王に成り代わった後であれば、適当な理由をつけて彼女を幽閉したり処刑したりすることも命令一つで可能です。いや……そもそも今回のアクシデントがなくても、あなたは国王に成り代わった後に彼女を殺す。彼女から見れば、今まで見ていた『トゥレイスさん』の顔をした人が今度は『国王』になっている、そうなってしまいますからね」
「……大変面白い想像だったよ、クズくん。でもわからないな、なぜ私が魔人だと思ったんだい? 他の誰かが魔人である可能性もあるんじゃないかい?」
「単純な消去法ですよ。魔人は昨夜、国王襲撃を企てた。であれば犯人は昨日王城に入った人間の内、誰かです。王城に入ってから日を置くメリットがありませんからね、できるだけ早く犯行に及ぶはずです。そして俺たちクラスメイトの顔は宝木が元々知っています。つまり、魔人が成り代わっていればすぐにわかるはずです。となれば、残りはハイメさんかトゥレイスさんしかいない。そして、ハイメさんは昨夜の行動で候補から除外できます」
魔人は黙って微笑んでいる。相変わらず騎士団の格好、つまり兜まであるフルプレートを着用したままで。
「――角ですよ。《虚飾》も宝木には意味をなさない。彼女の目から魔人特有の頭にある角を隠そうとすれば、兜か何かでずっと頭を覆うしかない。そしてハイメさんは昨夜、俺達に頭を下げて戦いへの参加を願った際に、兜を外しました。ハイメさんが魔人であればその時、宝木にはツノが見えてしまったはずですが、そんな様子はなかった。だから残るはトゥレイスさん――あなたしかいないんですよ」
「状況証拠に過ぎないような気がするけどね。もし間違っていたらどうするんだい?」
「それはありません。念のため宝木と俺たち、それぞれの証言を元にトゥレイスさんの
久頭は左手で懐から2枚の似顔絵を取り出し、見せつける。
魔人は少し俯き、不意に笑い出した。
「ふっふっふ。ああ、面白い。やはり面白いですねえ、人間は。全てあなたの推理通りですよ」
そう言うと、魔人は兜を脱ぎ捨てた。
「……それが、あんたの本来の姿か」
「ええ、そうです。名はヴァニタス。よく出来ていますねえ、その似顔絵。そっくりですよ」
魔人は兜を脱ぎ捨てると同時に自身への《虚飾》を解除していた。
その顔は今まで久頭が見ていた若い好青年の顔ではなく、ギラギラとした目をした狡猾そうな男の顔に変わり、髪の色も変わっている。何よりその額の上部には――二本の角が生えている。長さは短く、兜を被っても邪魔にはならない程度だ。しかし黒光りするそれは一目ではっきりと感じる禍々しい存在感を放っている。
そして、《分析》で見える彼のステータスも本来の表示に変わっていた。
『NAME:ヴァニタス
AGE:7075
権能:《虚飾》』
やはり、と久頭は思う。《虚飾》は《隠蔽》と同じくステータス表示にまで効果を及ぼせる権能だった。そもそも、久頭はこの世界で目にした全ての人物のステータスを《分析》で視ている。それでも《虚飾》の権能持ちは見つからなかったのだから、これは当然と言えた。
彼は機嫌良く久頭に問う。
「それで? クズ君の目的は何です? ここまで推理できるあなたが、この場で私の目の前にいる意味をわかっていないはずがない。君は私に殺される。もはや国王に成り代わる目的は果たせませんが……何、まだまだこの権能の活かし方はあります。窓の外にハイメがいるのなら、私は城内を通って反対側から逃げることにしましょう。当然そちらも兵士が待機しているのでしょうが。くくっ、ハイメ以外は脅威にもなり得ません。一人残らず殺して差し上げますよ。その前にクズ君、君は真っ先に殺す。君を生かしておけば、いずれ魔人の脅威になりかねませんからね……。それにタカラギ。彼女も必ず殺すことにしましょう。《虚飾》を使う私にとって、あまりにも彼女の存在は都合が悪い」
(そう、こいつはここで逃せば必ず宝木を殺す)
そう考えるであろうことは久頭には予想できていた。
(だから――こいつは絶対にここで仕留める)
上機嫌な魔人の長口舌には耳を貸さず、久頭は問いに答えを返す。
「俺が危険を承知でここにいるのは……あなたに聞きたいからだ。なぜあなた達は、魔人は人間と戦う?」
「それが命を賭けて聞きたいことですか? ふむ……人間の思考というものはいつまで経っても理解できませんね。まあ良いでしょう、お答えしますよ。魔人はそういうふうに出来ているからです」
「どういう意味だ?」
「言った通りの意味です。君たち人類はなぜ生きているんですか? なぜご飯を食べて、寝るんでしょうか? そういう生き物だからですよ。理屈じゃないんです。私達は人類を殺す。殺さずには、滅ぼさずにはいられないんです。そのように出来ている。だから殺す。効率的に殺す。惨たらしく殺す。戦略的に殺す。老若男女問わず殺す。殺し方に違いはありません。自分の手で殺すかどうかも関係ない。ただただより多くの人類を殺すよう行動する、そういう生き物なのです」
魔人の口調はごく当たり前のことを述べている、そんな口調だった。日は昇り、沈む。そんな自然の摂理と同様に、魔人もそういうものとして存在している。
久頭にとってはこの答えも予想通りではあった。しかし、ドゥーべ達の一方的な主張を聞いただけでは事実と異なる可能性もある。確認は必要な事項だった。
「……なるほど。ドゥーべ達に聞いた通りだな。よくわかったよ」
「おや? そんなにあっさりと納得してもらえたのは初めてですよ。こう説明するとなぜか皆さん怒り出すんですけどね。……なるほど、長々と推理を聞かせてくれたのは私が、魔人である事を認めないと質問にちゃんと答えないからですか」
「……もう一つ。魔人が数を増やしていないってのは本当か?」
「ええ、太古の昔から我々の数は変わっていません。いや、ハイメに殺されたので正確には一人減っていますが」
薄い笑みを浮かべて魔人は続ける。
「さあ、質問には答えましたよ。君とのお喋りは楽しかったが……そろそろ死んでもらいましょうか」
「ああ、俺もあんたと話せてよかったよ。色々と確かめられたしな」
「……不思議ですね。魔人の脅威度を理解できてないのでしょうか? これから死ぬというのに、あなたは笑っているように見える」
「そう見えるか? それは……良かった」
いよいよ理解できない、そんな表情を魔人は浮かべる。
「良かった? 何がです?」
「それならお前を」
久頭は人差し指を魔人に向ける。その指を曲げ、
(権能:《必中》――【
「――殺せる」
引き金を引いた。
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